ダイハツの新型「ムーヴ キャンバス」はどこが変わった?、開発者の答え
ダイハツ工業 くるま開発本部製品企画部エグゼクティブ・チーフ・エンジニア 小村明紀氏が語る
全高が高いワゴン型軽乗用車「ムーヴ キャンバス」の2代目モデルは初代から6年で初めて全面改良した。初代はかわいらしいデザインが人気で、若い女性を中心に累計約35万台売れた。それだけにどこに手を加えるのか、何を変えてはいけないのか大変悩んだ。
6年もたつと幼い頃からスマートフォンやデジタルに慣れ親しんできた若い世代に客層は移る。洗練さやスマートさに好みも変わってきている。かわいさを継承しながら大人や男性にも選んでもらえる上質さで、客層を広げたいと考えた。
そこですっきりしたデザインの「ストライプス」と上質感を持たせた「セオリー」の2モデルをそろえた。これまでは少しずつ手を加える“トッピング”の発想で同一モデルに違いを出していたが、初めから価値観の異なるモデルを設定した。
顧客は「どこが変わったのか、部分改良なのか」と思うかも知れない。180度異なる案も考えたが、思考が一回りした後で2代目のデザインに行き着いた。外観やシルエットを大きく変更せず、雰囲気を変えたのが特徴になる。
しかし車体の構造は一新した。当社の新型プラットフォーム(車台)「DNGA」を軽乗用車として「タント」「タフト」に続き導入し、走行性や快適性が向上した。要望がありながら初代ではかなわなかったターボチャージャー(過給器)も設定できた。ターボなら遠乗りも余裕で顧客のおよそ4分の1は選ぶのではないか。スライドドアなどをタントと同じ技術で軽くするなど、車重も1グラム、1ミリメートルにこだわり約50キログラム軽量化できた。
顧客や社内外の関係者の意見もよく聞いた。競合車に乗って比較してもらい、安心かつ余裕を持って運転できる走行性に仕上げた。車内の時間を大切にする強い傾向も分かった。車室の質感をいかに高めて理想に近づけるか、内装の担当者とも思いを一つにし開発を進めた。
初代はムーヴ派生車とされたが、軽の新たなジャンルとして高く支持された。2代目は基幹車の一つとして車名を「キャンバス」に独立させてはと議論したほどだ。付け足しのモデルでなくしっかりニーズを把握し市場の変化に応え続ける「ワンモデル」としたい。
【記者の目/月間販売目標の4倍受注】
新型ムーヴ キャンバスは7月5日の発表後、約1カ月で累計受注台数が約2万6000台と、月販目標6500台の4倍に上り快走している。先代が人気車だと、全面改良は保守的になりがちだ。同車もデザインの差異化に苦しんだが、新型プラットフォームで走りを刷新できた。売れ筋の軽乗用車人気は衰えそうにない。(大阪・田井茂)