シャープが世界初の第10世代液晶パネル工場でパソコン向け中型液晶パネルを量産する背景事情
シャープは子会社化した堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)でパソコン用モニターやノートパソコン向けの中型液晶パネルの量産を10月にも始める。SDPは60型以上の大型液晶ディスプレーで強みを発揮する世界初の第10世代液晶パネル工場だが、コロナ禍によるテレビ需要が一巡し、稼働率が低下。中小型パネル生産でフル稼働する亀山工場(三重県亀山市)から一部移管し、段階的にSDPの大型パネル生産比率を下げる。
6月にシャープの子会社となったSDPは、韓国サムスン電子からの受注減少でテレビ用大型パネルの生産が大幅に減ったとみられ、稼働率の引き上げが課題だった。
亀山工場でつくりきれないパソコン向け中型パネルの一部をSDPに移管する方向。テレビ用の生産も続ける。シャープがSDPで中小型パネルを量産するのは初めて回路パターンを作り込むフォトマスクなどに追加投資するとみられる。
中国メーカーの台頭でテレビ用大型パネルの競争環境は厳しさを増す。一方、中小型パネルはインターネット上の仮想空間であるメタバースや拡張現実(AR)、仮想現実(VR)などの市場拡大で商機が広がる見込み。
余力ができる亀山工場では車載など高付加価値品を視野に入れる。亀山工場とSDPを一体運営し、需給バランスに応じた生産の柔軟性を確保する。
SDPはシャープが2009年に稼働した液晶パネル工場の運営会社。巨額投資が裏目に出てシャープの経営悪化を招き、台湾・鴻海精密工業グループとの共同運営に切り替え、再子会社化まで連結対象から外していた。
SDPは21年12月期決算で4期ぶりに当期損益が黒字化したが、今期は採算悪化が見込まれる。中小型パネルの供給力が増えることで市況軟化につながり、価格下落の恐れもある。一方で米中摩擦に起因するサプライチェーン(供給網)の組み替えが顕在化し、米国向けを中心にシャープへの引き合いが増える可能性はある。