トヨタが支給材大幅値上げ受け入れ、サプライヤーから前向きな受け止めと不安の声
トヨタ自動車が、止まらない原材料価格の高騰に対するサプライヤー支援を強めている。このほど日本製鉄との自動車用鋼材の価格交渉で、大幅値上げを受け入れた。部品メーカーに支給する鋼材について、2022年度下期(10月―23年3月)の価格は、上期と比べて1トン当たり約4万円引き上げる。コスト負担を引き受けて取引先に還元することで強固なサプライチェーン(供給網)の維持を図る。(名古屋・政年佐貴恵)
10年度以降で最大となった大幅引き上げ。トヨタと取引する複数のサプライヤー関係者は「日鉄の提示した要求額を、ほぼ受け入れた形ではないか」とみる。トヨタはこの1年ほど、値上げを受け入れてきた。ウクライナ情勢などの影響もあり、鉄鋼の原材料価格は高騰が続く。脱炭素化時代に向けた投資もかさむ中、鉄鋼メーカーの苦境に寄り添った格好だ。トヨタ幹部は妥結に至った背景について「原材料価格の高騰は真っ先に念頭にある」とした上で「基本的には(トヨタが)取り込み、取引先に返す」と説明する。
周辺サプライヤーからは前向きな受け止めが聞かれる。妥結額は業界全体の価格交渉の目安となるため、ある鉄鋼メーカー幹部は「原材料や副資材などコストが軒並み上がる中で、今後の顧客との交渉の追い風になる」と期待を寄せる。また、ある1次部品メーカー幹部は「トヨタが正式に値上げすれば、我々も2次、3次の仕入れ先に値上げ要求しやすい」と安堵(あんど)する。
一方で不安の声も挙がる。支給材の値上げ分は基本的に部品メーカーがトヨタに納める製品の価格に反映されるため、トヨタと取引する部品メーカーに直接の負担はない。ただし、これまでにない値上げ幅の大きさを受け「全てを価格に反映してくれるのか」(鍛造部品メーカー幹部)と本音が漏れる。
反対に自社で鉄鋼材料を調達する中堅・中小部品メーカーにとっては、向かい風だ。「鉄鋼メーカーから相当強気な値上げを示され『のまねば供給しない』と言われるケースが再び起こるかもしれない」(駆動部品メーカー幹部)。すでにトヨタと日鉄の妥結額以上の値上げを提示されている部品メーカーもあるという。別の部品メーカー幹部は「海外の鉄鋼メーカーは国内以上の値上げを求めてくる」と話す。一層の負担増を懸念する部品メーカーもある。
トヨタは生産変動や原材料費、電力やガスといったインフラコストの上昇に苦慮するサプライヤーの負担軽減に取り組む姿勢を鮮明にしている。23年3月期は原材料コストとして1兆7000億円を業績予想の営業減益要因に織り込む。従来は対象ではなかった資材やエネルギーの上昇分を製品価格に転嫁する活動も始めた。サプライヤー各社は「動きが速く助かる」と話す。
ただし足元の状況では、トヨタの負担額がさらに増える可能性も否定できない。今後は生産から流通も含め産業全体でいかに負担を分散させるかが、課題になりそうだ。