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火星の大気から酸素を作り出す、新たな手法が考案された

火星の大気から酸素を作り出す、新たな手法が考案された

火星探査機パーサビアランスに搭載されたMOXIE装置(NASA/JPL-Caltech)

有人火星探査や将来の惑星移住を見据え、現地資源利用(ISRU)による酸素や水、推進燃料、肥料などの合成技術についても模索が始まっている。2021年には米航空宇宙局(NASA)が火星探査機「パーサビアランス」を使って、火星の二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)の生成に成功。ポルトガルのリスボン大学などの研究チームはこのほど、火星の大気を原料にプラズマ反応器で酸素を作り出す新たな手法を考案した。

昨年2月に火星に着陸したパーサビアランスは「MOXIE(火星酸素現地資源利用実験)」と名付けた電子レンジほどの大きさの装置を搭載する。固体酸化物電解により火星の大気に95%含まれるCO2を一酸化炭素(CO)と酸素イオンに分離、その後、酸素イオンが2個結びつきO2を作る仕組みだ。

同4月の実験では1時間で約5・4グラムのO2を生成、概念実証に成功した。宇宙飛行士が10分間の通常活動に必要な酸素の量に相当するという。

一方、リスボン大などはこの方式だと加圧に加え800度Cまでの昇温が必要で、実用化には装置の大型化が避けられないと主張。米国物理学協会発行のジャーナル・オブ・アプライド・フィジクスに、電子線照射で大気のCO2の二重結合を切断、低温プラズマ状態にして生成されるCO2、CO、O2混合物を固体膜で分離する手法を発表した。

論文によれば、火星の大気組成や圧力を模した実験ではMOXIEを上回る1時間あたり14グラムのO2生成が可能。加圧や昇温プロセスもない。さらに装置重量1キログラム当たりで得られるO2の量がMOXIEの6倍になると同大などは推測する。

ただ実際に火星で運用するには、持ち運びできる動力源や生成したO2の貯蔵タンクが必要で、多大なコストがかかるとの外部の指摘もある。課題はまだまだ多い。それでも、火星の大気に含まれる窒素を同様の手法で分解することで、肥料の合成につなげられる可能性もあるという。

日刊工業新聞2022年9月1日

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