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“芸術”の地位築いた現代の写実絵画、きっかけになった美術館

“芸術”の地位築いた現代の写実絵画、きっかけになった美術館

ホキ美術館コレクション第1号の森本草介「横になるポーズ」(1998年 ホキ美術館蔵)

細部まで正確に対象を描く写実主義という様式がある。19世紀に写真が登場すると、特に印象派の画家はこれを脅威に感じ、独自の表現を追い求めた。これが日常の風景などを見たまま描こうとする狭義の写実主義の衰退につながる。現代では写実絵画は、写真と異なる“芸術”としての地位を築き、新たなムーブメントを起こしつつある。

そのきっかけになったのが、日本初の写実絵画専門美術館のホキ美術館。2010年、千葉市に開館した。ホギメディカル創業者・故保木将夫氏の収集品を基にした写実絵画約500点を収蔵している。同市最大の総合公園「昭和の森」に隣接し、空中に浮かぶ回廊型ギャラリーは名建築で海外から訪れる人も多い。

ホキ美術館の建物は「日本建築大賞」に選ばれた

主に外国の絵を購入していた将夫氏は1990年代に、森本草介の作品「横になるポーズ」に出会い、その魅力に引き込まれ写実絵画のみを集めるようになったという。やがて自宅隣に作品を収蔵し、年に1回無料開放していた。すると「全国から数百人が集まるようになり、父が美術館の設立を決めた」と、現館長で娘の保木博子氏は話す。保木館長は共に内外の美術館を見て歩いた。

野田弘志や中山忠彦ら現代作家の名品も集め、これまでに全国10カ所以上で巡回展を開いた。写実絵画の本場スペインとも交流する。日本人は細密画が得意で、世界的に見ても水準が高いという。同館は新たな写実作家を発掘するため「ホキ美術館大賞」を設け、13年に作品の公募を始めた。これも美術界での写実絵画の存在感を高めた。

11月13日まで展覧会「いろいろ 色の魔法―色から見える写実」を開催中。保木館長は「今後は写実の枠を広げ、新しいタイプの写実絵画も増やしたい」と意欲を示す。世界でもまれな“写実の殿堂”の歴史は始まったばかり。作家とのコミュニケーションを深め、作家とともに歩む新しい美術館を作り上げていく。

【メモ】▽開館時間=(通常)10―17時30分▽休館日=火曜日(祝日の場合は翌平日)▽入館料=一般1830円▽最寄り駅=JR外房線「土気(とけ)駅」▽住所=千葉市緑区あすみが丘東3の15▽電話番号=043・205・1500
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
かつてアートとはみなされなかったという写実絵画。今でも学べる大学はわずかしかない。しかし、世界で最も有名な絵画であるレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」は写実的であるし、日本に愛好者の多いフェルメールの技法も写実的だ。こうした古典的な油彩画の手法を用いた作品がホキ美術館には数多く展示されている。アート界に旋風を巻き起こし、若手作家に活躍の場を与えた、世界にも類を見ない“写実の殿堂”から、今後も目が離せない。

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