社長が力説、トラスコ中山はなぜ「自社物流」にこだわるのか
トラスコ中山は全国28カ所に物流センターを置き、独自の物流網を作り上げてきた。最新機器によって効率化された自社物流は同社の要だ。今後も機能強化を図り、将来は100万アイテムの在庫を目指すという。2021年には物流関連技術のさらなる高度化を狙ってAI開発企業など2社と資本業務提携を結び、名古屋大学とも共同研究をスタートした。これらの成果を2026年に完成する「プラネット愛知(愛知県北名古屋市)」で生かす。中山哲也社長に競争力の源泉とする「物流」について聞いた。(8月25日付け日刊工業新聞・企画特集「物流未来画」より)
-自社物流が強い武器になっています。
「物流を制する者が商流を制する。この物流へのこだわりは入社2年目に配達を担当していた私自身が、お客さまからかけてもらった感謝の言葉が起点になっている。顧客が望むのは必要な商品が早く、確実に手元に届くことだ。これを商売の本質と捉えれば、他人には配達を安易に任せられない。ネット社会になり、ネット通販が浸透した今でこそ物流が重視されるようになった。しかし当社は私の社長就任後、25年も前から物流に取り組んでいる」
-物流を自社に取り込むメリットは。
「自社物流は費用を固定で見ることができる。通常、配送費は変動費に計上するものだが、自社物流では固定型になるため損益分岐点を超えれば利益が増えていく。さらに(販売店などの)顧客に対し、配達と同時に返品や交換、修理品の回収が可能になる。配達のための梱包(こんぽう)も不要。何より商品単価が下がっても配送費用を考えることなく、届けられるのは大きい。売り上げが減少すれば収益は圧迫されるが、取扱商品と顧客を可能な限り増やしておけば吸収できる」
-50万アイテム、約5000万個の在庫を持っています。
「経営において在庫を持つことはリスクだと教えられる。これは顧客の立場に立っておらず、“わが社目線”でしかない。豊富な品揃えと在庫であらゆる注文に応えるのが問屋の使命。当社は(数年に1回出るような)『ロングテール』と呼ぶ商品も積極的に持つ。季節商品も『売り切って終わり』ではなく、ニーズに対して最後まで供給できるように商品を管理している。またスパナなどの工具はすべての規格サイズに加え、ユーザーの好みにも応えられるように売れ筋に限らず、当社が取り扱う全メーカーの商品をそろえている。『売れない在庫は置かない』『在庫回転率を重視』といった一般的な考え方にはとらわれていない」
-自社物流網や豊富な在庫が新しいサービスを生んでいます。
「今あるもので何が変わるかを想定し、変わらない価値をどう強化していくかを考えている。納期という点で、近年スタートした置き工具『MROストッカー』は究極の“即納”を実現した。在庫管理は当社、商品配送は販売店と、それぞれが役割を担っている。『置き薬』のように最終ユーザーの元に指定の商品をそろえた棚を置き、注文しなくてもスマートフォンのアプリ決済でユーザーがすぐに購入できる仕組みだ。導入は急速に広がっており、現在、約500カ所で使われている」
-ユーザーへの直接配送も始めました。
「近年のネット通販企業は出荷スピードが最優先。ユーザーが一度に複数の商品を注文しても、倉庫内でピックアップした順にそれぞれを発送する。このため、使う資材と配送費が増える。最終ユーザーは受け取りと多くの段ボールの処分に苦労する。当社は物流センターで商品を一つにまとめる『ニアワセ(荷合わせ)』と顧客に代わって発送する『ユーザー直送』に力を入れている。『物流崩壊』といった言葉が飛び交うが、豊富な在庫を持つ問屋が荷合わせを担うことで配送回数が減り、コスト、環境負荷も軽減する。ネット通販企業のニーズは高く、すでに年間約400万個を直送している」
-物流システムの高度化を進めるアプローチは。
「課題解決の中で、全体のバランスを考えながら設備、システムを強化している。最大の物流センター『プラネット埼玉』も当初計画ではフルスペックではなく、ニアワセやユーザー直送などのサービスも視野に入っていなかった。ただ『ネット通販の顧客が増える中で荷合わせ装置が必要になるだろう』、『人材採用の点からより自動化が必要だろう』ということから導入を進めた。物流は日進月歩で変わる。ニーズをつかみ、それをサービスとして提供できる機器を入れていっている」
-物流のシステム構築で外部との連携を強められています。
「自社物流や拠点のシステム構築は自ら道筋をつけてきた。しかし素人集団の限界もある。そこで21年に物流システムの省人化などを手がけるGROUND(東京都江東区)やAI企業のシナモン(東京都港区)と資本業務提携した。これからはプロのアドバイスが必要だ」
-名古屋大学との産学連携もスタートしました。
「同じタイミングで名大から声がかかった。連携先は自動車の自動運転の研究チーム。ノウハウの物流への応用を考えている。このチームは『プラネット東海(愛知県岡崎市)』に分室を置き、90台の定点カメラを使って作業者の動きや姿勢、荷物の流れを測定している。これにより無駄な動きをなくすという。こうした連携の成果を26年に完成する物流センター『プラネット愛知』で生かす。プラネット愛知には130平方メートル規模の名大の分室も入る予定だ」
-これからの物流に何が必要ですか。
「さまざまな会社が物流をどうしていくか模索している。ただ一足飛びに先へは行けない。通らなければならない道がある。実際に動かし、失敗もして高みを目指す。“はやり”を取り込んでも悪いところを直していかなければ、よくはならない。機器が動いているのを見て喜んでいてはいけない。高機能な機器をどう組み合わせて使っていくかが、次世代の物流にとって重要になる」
中山哲也(なかやま・てつや)氏
81年(昭56)中山機工(現トラスコ中山)入社。84年取締役、87年常務、91年専務、94年社長。大阪府出身。63歳。