日本人に“ぐっすり”を。「スリープテック」が法人を狙う
睡眠の改善を促す法人向けサービスが相次いで登場している。企業に健康経営が広がる中で、従業員のヘルスケアとの関連が注目されているのが睡眠だ。日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)で最下位とされる上に、コロナ禍などの環境変化が睡眠の質に影響を及ぼしている。この睡眠負債大国を科学的知見「スリープテック」を基に改善すべく技術開発が活発化している。(編集委員・井上雅太郎)
【帝人フロンティア】“眠りの質”点数化
帝人フロンティア(大阪市北区、平田恭成社長)とFiNC Technologies(東京都千代田区、南野充則社長)は、睡眠の質を可視化・評価できるサービス「スリープコンシェルジュ」を提供している。
帝人のセンシング技術とFiNCが持つヘルスケアの知見を融合した。ベルト形状の睡眠計測器「マトウスSS」を布団の下に敷くだけで、睡眠時間・深さや、心拍・呼吸数、寝返り数などを測定。スマートフォン用アプリケーションを通じて質を点数付けし、時系列でデータを可視化する。
法人向けではホテルなど宿泊施設を対象に、一晩でも利用者の睡眠の質を評価できる専用サービスを開始した。帝人フロンティアは「新事業として繊維によるセンシング技術の活用を進めている。今後は企業向けにヘルスケア領域に広く展開したい」と事業拡大を計画する。
【ライオン】業務運転手の疲労管理
ライオンは運転業務ドライバーを対象に睡眠や疲労感を可視化できる法人サービス「コンディションナビ」の提供を始めた。リストバンド型デバイスを装着することで睡眠の質を測定・評価し、その日の体調をドライバーと運行管理者が共有できる仕組み。
専用デバイスで睡眠の深さ・寝付き・睡眠時間・中途覚醒などを測定。結果を評価し、一人ひとりの体調に適した生活習慣アドバイスをスマートフォンを通じて提案する。データはパソコン管理ツールでも確認でき、管理者と共有しながら生活リズムに合わせた睡眠習慣を身に付ける。
ライオンは「2030年に向けたビジョンの中で、新規ビジネスで300億円の創出を目指している」(掬川正純社長)として、コンディションナビもその一翼を担う。
【NTTパラヴィータ】AIで未病早期発見
医療・介護ベッド大手のパラマウントベッドとNTT西日本が共同出資して21年に誕生したのがNTTパラヴィータ(大阪市中央区)だ。パラマウントのマット型センサーで呼吸や心拍数などの睡眠データを取得。これをNTT西の人工知能(AI)エンジンにより分析・可視化して、睡眠時無呼吸症候群の可能性を示唆できるなど未病の早期発見や健康増進に役立てる。
調剤薬局向けに地域住民に睡眠レポートと睡眠アドバイスを提供するサービス「ねむりの窓口」を展開している。薬局は睡眠センサーを貸し出し、1週間の睡眠時間や深さ、中途覚醒、呼吸状態などを可視化した睡眠レポートを提供する。
さらに企業向けサービスを開始した。貸し出したセンサーを使い利用者1人当たり2カ月間の睡眠測定を実施する。測定1週間ごとに睡眠レポートを提供し、最初の1カ月間の測定後に同社の専門スタッフによるウェブ面談を実施。その際のアドバイスを基に次の1カ月間で改善を図る。第1弾でIT企業のジュニパーネットワークスの採用が決まった。NTTパラヴィータは「導入企業を拡大し22年度に3000人の従業員の睡眠サポート実施を目指す」としている。