巨大「蓄電池」に…揚水発電の役割が変わった理由
揚水式水力発電所の役割が変わりつつある。揚水発電は上ダムから下ダムに水を落とし込んで発電し、その水をポンプで再び上ダムに戻して次の発電まで待機する。かつて原子力発電所が十分に稼働していた時は、余った夜間の電力を使って下の池から上の池に汲み上げ昼間に発電していた。今は太陽光発電がピークになる昼間にくみ上げ、電力が不足する夜間に発電したり、不足時に備えた発電の権利として売買するなど“蓄電池”としての役割が重要視されている。(編集委員・板崎英士)
「かつては午前に3時間、午後に4時間、定期的にフルパワーで発電していた」。東京電力リニューアブルパワー(RP)の神流川発電所(群馬県上野村)に長年勤務してきた兵藤香さんは言う。同発電所は653メートルの高低差で水を落とし込み、地下に設置した47万キロワットの発電機2基で発電する。ミドル電源に近い役割を担いつつ、5分で最大出力が出せる特徴を生かし、不足時のピーク電源として活躍してきた。
太陽光発電が増えた現在は、春秋の好天時には発電過多となるため、九州地区をはじめ昼間に再生エネの出力を制御するケースが増えている。電気を捨てざるを得ないのだ。半面、原発が十分に稼働しない今、燃料高騰や気温の影響で頻繁に需給逼迫(ひっぱく)が起きている。3月と6月に東電エリアで起きた需給逼迫時に大停電を起こさずに乗り切れたのは、最後に揚水発電が活躍したからだ。エリア内のすべての揚水発電を最大限活用して、電気の不足に合わせて発電した。ダムの水を使い果たしたら発電は終了し、その時点で停電になる可能性もあった。国や東電は水の残り容量を見ながら国民に節電を訴えた。
電気は需給バランスが崩れると周波数が維持できなくなるため、調整力にたけた電源が必要だ。揚水発電には供給過多時に電力を使って水を汲み上げ需要を調整する役割もある。また東電RPは電力小売り事業者に対し電力市場が高騰した際の対策として、揚水発電の蓄電池機能を権利として販売する「電力預かりサービス」も増やしている。
国内では揚水発電所を新設する余地はほとんどない。電力各社はタービンの形状を替えるなど、発電設備を最新鋭のものに取り換え能力を増強させるリパワリングに積極的だ。
またJパワーは揚水発電の下郷発電所(福島県下郷町)をデジタル集積戦略特別区域と位置付け、ロボットによる設備点検や、センサーやカメラで送られたデータを人工知能(AI)で解析するなど、保守業務のデジタル化に取り組んでいる。
高低差のある二つのダムが必要な揚水発電は山中深くの立地が大半で、無人運転が理想的だ。こうしたデジタル技術を活用し貴重な揚水発電の最適運転に取り組んでいる。