“冷媒ショック”で工場・データセンター操業停止の危機、代替フロンが不足!?
2024年に空調機器や冷凍・冷蔵庫が使えなくなる工場やビル、店舗、データセンターが続出する可能性が指摘されている。冷たい空気や暖めた空気を運ぶ冷媒が入手困難になる恐れがあるからだ。日常的な設備点検で事態を回避できるが、日本冷媒・環境保全機構(東京都港区)の作井正人専務理事は「経営問題であるにもかかわらず、多くの経営者が問題を認識していない」と警鐘を鳴らす。
“冷媒ショック”は「代替フロン」と呼ばれるハイドロフルオロカーボン(HFC)類をめぐる規制が引き金になりそう。HFCは一般的な冷媒だが、温暖化を助長する温室効果ガスの一種。二酸化炭素(CO2)と比較した温室効果を示す地球温暖化係数は2000―1万倍だ。国際社会は16年、「特定フロン」の全廃を決めたモントリオール議定の規制にHFCも追加した。これが「キガリ改正」だ。
キガリ改正は各国に代替フロンの生産・消費量の段階的な削減を義務付けた。日本では24年以降、11―13年の平均比40%削減となり、冷媒不足が生じる可能性がある。工場の生産ラインにある空調設備が故障し、修理して冷媒を入れ直そうとしてもHFCが入手できない事態が予想される。工場はHFCを入荷するまで操業できず、その分、経営には損失となる。
ビルの空調機器や店舗などの冷凍・冷蔵庫も同じだ。データセンターもサーバー室を冷やすため常時、冷房を稼働させている。HFC不足によってデータセンターの稼働停止を余儀なくされると、情報インフラを基盤とする今の社会・経済に混乱を招く。作井専務理事は「我々の生活に必要な空調、冷凍・冷蔵庫が動かないと大変なことになる」と繰り返し警告する。
さらに30年代になると生産・消費量は7―8割削減となる。入手が困難になるだけでなく、現在のHFCが生産されていない可能性もある。キガリ改正で規制する生産・消費量は、地球温暖化係数を基にしたCO2換算量。絞り込まれた生産・消費量に対応するためメーカーは、CO2換算量が少ない新しい冷媒の生産にシフトする。空調などは機器ごとに冷媒が決まっており、古い機器に新しい冷媒を補充できない。機器の利用者は現状のHFCの生産が終了する可能性を考慮し、更新計画を検討する必要がある。
キガリ改正の規制対象はメーカーであるため、機器の利用者である工場やビル、スーパーなどの関心は低い。危機を防ぐため作井専務理事は経営者に対して「定期的な点検によって故障させないことが必要」と訴える。
日本では20年、改正フロン排出抑制法が施行され、冷媒を使う機器の保有者に定期的な点検を義務付けた。さらに一定量の冷媒漏れが見つかれば国や都道府県への報告義務も課し、罰則も強化した。
法令順守が故障防止につながるが、十分な点検が行われていないというのが関係者の認識だ。漏えいの報告件数が少なく、業種による偏りもあるためだ。日本冷媒・環境保全機構が東京証券取引所の1部上場企業(21年時点)のうち、703社が発刊した統合報告書を調べたところ、定期点検の報告は16社(2%)だった。
機器メーカーも対策を提案している。ダイキン工業は使用済み冷媒を回収して再生し、再び機器に入れる循環システムの構築を目指す。再生冷媒は繰り返し使ってもキガリ改正の生産・消費量にカウントされない。冷媒の循環が定着して再生冷媒の供給量が増えると、24年以降のHFC不足を回避できる。ダイキンは6月、北九州市や住友不動産、竹中工務店、冷媒再生業者などと連携し、循環を支えるデジタルシステムの開発にも着手した。
改正フロン排出抑制法でも機器の廃棄時に冷媒を再生業者に引き渡せるため、「再生を増やしてほしい」(作井専務理事)と訴える。キガリ改正が要求する生産・消費量に十分に対応できる冷媒は開発されておらず、将来、再生冷媒の価値が高まる。
空調や冷凍・冷蔵庫の点検によって、予期せぬ故障による操業停止を回避できる。HFCを大気中に漏らさず、再生して使えば気候変動対策や資源循環にも貢献する。「空調や冷凍・冷蔵庫の適切な管理は、企業の社会的な責任だ」(同)と強調する。