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FIT開始10年、課題と産業界にもたらした新しいビジネス

FIT開始10年、課題と産業界にもたらした新しいビジネス

FITによって再生エネは控えの存在から主力級へと格上げされた(イメージ)

再生可能エネルギーで発電した電気の固定価格買い取り制度(FIT)が始まって1日で10年を迎えた。再生エネは電源の2割を占めるまでに拡大し、発電量は2012年度比1・8倍となった。導入が太陽光発電に偏るなど課題もあるが、FITによって再生エネは控えの存在から主力級へと格上げされ、産業界にも新しいビジネスや商品をもたらした。(編集委員・松木喬)

【太陽光に導入偏重】風力発電の拡大課題

FITは太陽光や風力、地熱、中小水力、地熱、バイオマスの普及を後押しする狙いで12年7月に始まった。発電した電気を長期間、決まった価格で電力会社が買い取ることを保証し、他業界からの発電事業への参入を促した。買い取りの資金は、電力料金と一緒に徴収する再エネ賦課金で国民が負担する。

経済産業省によるとFIT開始から21年末までに6554万キロワットの再生エネ設備が新規に稼働した。原子力発電所にすると65基分だ。20年度末の電源に占める再生エネ比率は19・8%となり、12年度比約10ポイント上昇。再生エネ設備の発電量は同84%増の1983億キロワット時に増加した。

発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない再生エネが増え、日本の温室効果ガス排出量は20年度まで7年連続で減少した。新型コロナウイルス感染症の流行で経済活動が停滞した影響もあるが、集計を始めた90年以降で最小となった。

普及に伴って再生エネへの期待が高まった。政府は18年、「再生エネの主力電源化を目指す」と表明。21年には「再生エネ最優先の原則」も宣言し、導入を加速する方針を明確にした。エネルギー戦略研究所の山家公雄所長は「エネルギー安全保障の議論に再生エネが入ったことが画期的」と話す。従来、海外からの化石燃料の安定確保が安全保障の基本だった。最近のエネルギー価格の高騰によって海外依存のリスクが浮き彫りとなり、国産エネルギーである再生エネの重要性が認識された。1次エネルギー自給率は原発が稼働していた10年度の20・2%には届かないが、11・2%まで回復した。

山家所長は「再生エネがエネルギー政策の基本方針である3E+S(安定供給、経済性、環境、安全性)に貢献することが証明された」と話す。経済性について「再生エネは高い」と言われ続けてきた。確かにFIT開始当初、太陽光発電はパネル代や建設費を反映し、買い取り価格は1キロワット時40円だった。普及によるコスト低減やFITの修正によって現在は同10円まで低下。6月の入札では9円台を付けた。政府は21年7月、30年時点で太陽光の発電コストが同8円台前半―11円台後半と試算し、電源別で最安になるとした。現状でも太陽光の電気を同10円前後で長期購入する企業も出ている。

ただ、課題もある。太陽光に導入が偏重し、風力発電の新規導入は220万キロワットにとどまった。6月下旬、太陽光の発電量が減る夕方以降、電力不足が生じて市場価格が同100円に跳ね上がる異常事態が起きた。夜間も電気を供給できる風力発電を拡大し、バランスを整える必要がある。

【産業界に新陳代謝】電気売買仲介で成長

FITは産業界にも新陳代謝をもたらし、新しいビジネスや商品を生んだ。

「電力市場のプレーヤーが増えた」。デジタルグリッド(東京都港区)の豊田祐介社長はFIT開始当時、大学の研究室にいた。新しい電力ネットワークを研究する教授を訪ねてくる企業の業種が多様になり、FITが電力事業への参入障壁を下げたと実感した。

再生エネは太陽光に偏重している。風力発電を拡大し、バランスを整える必要ある(横浜市風力発電所)

豊田氏は卒業後、金融会社で“太陽光バブル”を体感した。「FITで売電する権利を持っていると主張すると資金が動く」世界だ。同じ土地に何人も権利者がいて、仲介業者がもうける。まさに“現代の錬金術”だった。

しかし15年を境に風景が一変する。「買い取り価格が20円台へ下がると顔ぶれが変わり、投資目当ての人が姿を消した」という。買い取り価格の低下によって売電収入が減るため、真剣にコスト削減を検討する企業が目立つようになった。

豊田氏は恩師が17年に設立したデジタルグリッドに移り、社長に就いた。同社はITによって電気の売り手と買い手を結びつける民間取引所を開設。ソニーグループやアサヒグループホールディングスなどが取引に参加する。

FITが改正され、22年度から発電事業者が売電先を探すルールが加わった。「努力して発電所を建てても電気の売り先が見つからない可能性がある。真面目な人が報われるようにしたい」と使命を感じている。ちょうど企業も再生エネ電気を調達する発電所の“品質”を気にするようになった。森林を強引に開発するなど地元への配慮を欠いた発電所を避け、地域に根ざした発電所を選ぶ傾向が強まっている。FITの光と影を知る豊田氏率いるデジタルグリッドは、クリーンな発電者と企業を橋渡しするビジネスで成長を目指す。

【積水ハウス】パネル搭載、新築9割超

住宅用太陽光発電を対象としたFITは先行して09年10月に始まった。当時、積水ハウスは太陽光パネル搭載住宅を商品化した。近田智也執行役員は「FITのおかげで、住宅購入者が太陽光発電のメリットを光熱費で実感できるようになった」と振り返る。

積水ハウスの太陽光パネル搭載住宅。デザインを損なわない瓦一体型も開発し、搭載率を高めた

いま、同社が販売する新築住宅への太陽光パネル搭載率は9割を超える。業界平均が2割なので突出している。FITの後押しがあったが、「試行錯誤し、課題をつぶしてきた」と自社の取り組みも強調する。太陽光パネルが外観を損なうと気にする購入者がいれば、瓦と一体型のパネルを開発した。設置に制約がある屋根を広くする工法も編み出した。搭載率9割に高めたことで「環境配慮住宅のブランドを築いた」と語る。

19年にはFITの買い取り期間が終了した太陽光パネル搭載住宅から、同社が発電した電気を調達する「オーナーでんき」を始めた。同社は40年までに事業で使う電気全量を再生エネにする目標を設定した。オーナーでんきの成果で前倒しでの達成が見えてきた。FITの効果で太陽光パネル搭載住宅を標準的な商品に仕上げ、同社も再生エネ利用で先行できるようになった。

日刊工業新聞2022年7月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「電力ビジネスの民主化」と言えば大げさかもしれませんが、業種・規模を問わずさまざまな企業が参入しました。私自身では言えば電力制度を勉強するきっかけとなり多少の知識も身についたと思っています。ただ覚えたことを他の人に伝えるのは難しいです。説明を再現できないほど、難しい制度がある業界だと未だに感じています。

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