IoT社会到来前に…KDDIの通信障害が浮き彫りにした脆弱性
KDDIは4日、2日未明に発生した通信障害について、音声通話・データ通信含め全国的にほぼ回復したと発表した。ほぼ復旧するまで、およそ63時間が経過。個人の携帯電話だけでなく、自動運転をはじめとした「IoT(モノのインターネット)」サービスなど、法人向け通信にも影響が及んだ。企業のデジタル変革(DX)化を背景に、同社は法人事業の拡大を図っている。今回の通信障害は同事業の成長に水を差しかねない。
KDDIは、政府による通信料金引き下げなどの影響で個人向け通信事業が伸び悩む中、法人事業に注力。特にIoTサービスの拡大には、大手通信会社の中でもいち早く着手してきた。2022年3月期の法人向けIoT累計回線数は、19年3月期比3倍超の2450万回線にまで伸長した。5月に開いた会見で、高橋誠社長は「グローバルパートナーと培ってきた信頼の運用・保守体制が、当社の大きな強み。つながり続ける安心感に加え、第5世代通信(5G)とDXで新たな価値を創出していく」としていた。
自動運転や、飛行ロボット(ドローン)を用いた発電設備の自動点検など、企業のDXニーズは急速に拡大。同社は高速大容量の5Gを活用し、各業界のDXニーズを取り込む構えだ。法人事業は、22年3月期―25年3月期の営業利益の年平均成長率で2ケタ増益を目指す計画だが、通信障害による影響は避けられなさそうだ。
物流・車・金融…影響多岐に
KDDIで発生した通信障害により、物流や運輸、自動車、金融など幅広い法人顧客に影響が広がっている。IoT社会の到来を目前に、脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした。
運輸・物流業界ではヤマト運輸が4日12時時点で、一部地域でコールセンターやセールスドライバーに電話がつながりにくくなるトラブルが発生した。また、宅配便ロッカー「PUDO」を利用した荷物の発送や受け取りができない状況も発生した。コールセンターやホームページに非常に多くの問い合わせが来ており、回答に時間がかかっているという。
JR貨物は貨物情報システムに影響が出ており、荷役作業の遅れで3日時点で32本の貨物列車に遅延が生じた。現在、通信障害による遅延は発生していないという。
日本航空(JAL)は、羽田や成田など各空港の空港スタッフ用の無線通信機が利用しづらくなるトラブルが発生。しかし、他社の無線サービスも併用して使ってるため、実際の運航業務に支障は出ていない。引き続き複数の無線サービスを使っていく。
4日12時時点で自動車業界ではSUBARU(スバル)がコネクテッドサービス「スターリンク」の利用に支障が出た。
日野自動車はKDDIと展開しているトラック専用ナビゲーションアプリケーション(応用ソフト)「スペシャルナビパック」も利用しにくい状況となっている。「影響や対策については確認中」(同社)という。
いすゞ自動車はクラウド型システム「MIMAMORI」のサービスに影響は出たものの復旧した。顧客への具体的な影響は「確認中」(同)。
マツダはKDDIの通信障害で、コネクテッドサービスに同社回線を使用していることから、車とスマホアプリの間の通信などで障害が起きたことを明らかにした。障害の発生が休日な上、社内連絡には、チャットなどを利用していることから、業務への支障は生じておらず、広島本社工場(広島市南区)と防府工場(山口県防府市)の両工場とも通常操業している。
銀行業界では、大垣共立銀行の店舗外の現金自動預払機(ATM)の一部で2日の営業開始から利用できない状態が続いた。店舗外のATM221台のうち2日午前時点で190台が利用できなくなっていたが、4日16時までに不具合は解消した。