“相場の神様”の収集品を基に創立、日本初の日本画専門美術館が担う役割
山種美術館は日本初の日本画専門美術館として、1966年に東京・日本橋兜町に誕生した。売りを強みに数多くの相場を制し、“相場の神様”と呼ばれた山種証券(現SMBC日興証券)の創業者・山崎種二の収集品を基に創立された美術館で、千代田区三番町への仮移転を経て2009年に現在の広尾に移った。
山崎妙子現館長の祖父にあたる種二は、「絵は人柄である」との言葉を遺した。横山大観や上村松園、川合玉堂ら同時代の画家の人柄に惚れ込み、彼らと交流しながら作品を集めた。戦時中に住居や米などを支援した大観から、のちに「世の中のためになるようなことをやったらどうか」と説かれ、美術館の創立を決意したとのエピソードが知られる。
種二は15歳の時に無一文で上京し、親戚の米問屋ででっち奉公をした。その際、主人の家の床の間に飾られる掛け軸に心を奪われたそうだ。独立後にようやく日本画の収集を始め、2代目の富治とともに浮世絵や江戸絵画から近現代の日本画まで幅広いコレクションを築いた。
日本画は岩絵具や和紙など自然素材を用いる芸術だ。学芸課長補佐の南雲有紀栄氏は、「当館には日本画を中心に日本文化を盛り立てていく役割がある」と話す。和服の来館者には「きもの特典」の割引サービスを行うといった取り組みもその一環。併設の「カフェ椿」の和菓子も有名で、「美術鑑賞の余韻の中、目や舌でも味わえば、豊かな体験がより記憶に刻まれる」(南雲氏)。
16年の創立50周年を機に、若手画家を支援する公募展「Seed山種美術館日本画アワード」を創設。21年に業界でも珍しいオンライン展覧会を開始した。9日から開催の特別展「水のかたち―《源平合戦図》から千住博の「滝」まで―」は、水をテーマとする涼しげな展覧会。世界的画家の千住博も若いころ、富治の支援を受けたそうだ。
【メモ】▽開館時間=(通常)10―17時▽休館日=月曜日など▽入館料=展覧会により異なる▽最寄り駅=JRおよび東京メトロ日比谷線「恵比寿駅」▽住所=東京都渋谷区広尾3の12の36▽電話番号=050・5541・8600