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日本のターボチャージャー2強、世界で勝てる戦略練る

日本のターボチャージャー2強、世界で勝てる戦略練る

右は三菱重工の地域別売り上げ構成比

*三菱重工、グローバル化の先兵
 売上高約4兆円の三菱重工業グループにおいて、事業規模1500億円程度と小粒ながら、年々その存在感を大きくしている自動車用ターボチャージャー(過給器)。自動車メーカーの新車やエンジン開発の時間軸と軌を一にしており、2018年度に1100万台(14年度590万台)という販売計画が成長力を如実に示す。

副産物多く


 グローバル化に活路を求める三菱重工にとって、当初から世界を相手にしてきたターボチャージャー事業はその先兵。自動車メーカーのコストダウン要請に応えながら、タイムリーに大量生産をこなしていくというビジネスモデルも同社内では希有(けう)。副産物は多い。

 トヨタ自動車を除き、ほぼすべての大手自動車メーカーとの取引を持ち、世界最大の市場となった中国ではゼネラル・モーターズやBMWなど欧米系メーカーだけでなく、スポーツ多目的車(SUV)で躍進する長城汽車など地場メーカーからの受注が相次ぐ。

 マザー拠点の相模原製作所(相模原市)。15時を回るとあちらこちらで英語による電話会議が始まる。「売上高、人員の約9割は海外。販売では円、ドル、ユーロ、元の影響を受け、調達ではバーツ、ウォンと通貨に大きく左右される」(機械・設備システムドメイン自動車部品事業部長の梶野武)。

 事業を長年率いてきた梶野の信条は「日本人だけではやらない」。15年5月に最終組立が始まった北米工場(イリノイ州)。オランダから従業員4人が海を渡った。梶野は英語堪能なオランダ拠点の従業員を北米新工場の工作や購買など主要ポストの実務マネージャーに抜擢した。

 ディーゼルエンジン車が約半分を占める欧州はターボチャージャーの最大需要地。三菱重工はオランダを日本に次ぐ第2の開発拠点に位置づけ、実験設備などを拡充してきた。北米新工場への人材派遣を通して、マネジメントの高度化も図る狙いだ。指導に当たる日本人の従業員にとっても、多国籍環境での業務は刺激になる。

“知”を結集


 ターボチャージャー市場は米ハネウェル、米ボルグワーナー、三菱重工、IHIの4社でほぼ独占。ジェットエンジンやタービンなどで培った空力や安定化、高温強度などの高度な技術が参入障壁となっているためだ。だが、世界の自動車需要予測をみると20年以降は成長が緩やかになり、過給器4社によるパイの奪い合いも熾烈(しれつ)になる公算が大きい。

 「コスト構造で負けるはずはない」と梶野は断言する。タービンローターなどを組み込んだ中核部品「カートリッジ」製造の完全自動化に成功し、100億円以上を投じてタイに巨大な生産ラインを構築。試作開発では3次元(3D)プリンターを活用する。オランダではロボット導入により組立も自動化、ライン作業者を6割以上減らした。モノづくりの高度化も自信を裏付ける。

 中国では新興メーカーの優良顧客をつかみ、第3工場建設にまでこぎ着けた。16年度には欧州と並ぶ最終組立能力を計画する。日本、オランダ、タイ、中国、米国という主要5拠点の“知”を結集した世界一への挑戦。仕込みに抜かりはない。
(敬称略)
 ※日刊工業新聞では「挑戦する企業 三菱重工業編」を連載中

IHI、3年間で300億円設備投資


 IHIは2016年度から3年間でターボチャージャー(過給器)事業の設備投資に合計約300億円を投じる方針だ。過去3年に比べて投資水準は下がるが、製造・検査の自動化や輸出戦略の見直し、老朽設備更新、品質管理の標準化など事業効率を高める部分に重点配分する。足元は中国など新興国の景気減速の影響を受けるが、燃費・排出ガス規制強化に伴い需要は拡大基調。ただ、過去の増産一辺倒から効率重視へと、投資戦略は転換期に入る。

 IHIはトヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)など、世界の大手自動車メーカーにターボチャージャーを供給する。18年度には15年度見通し比約6割増の900万台弱の販売を計画。20年度以降に販売台数を1000万台超とし、事業規模を2500億円以上(15年度見通し1650億円)に引き上げる方針だ。

 16年度からの3年間は年100億円規模の設備投資を継続する。増産に加え、地域別の需要変動や為替変動、人件費高騰などへの耐性を強める。最終組み立てについては従来の“地産地消”戦略を転換。17年度をめどに、タイ工場から米国、中国への完成品輸出を始める。

 また、ドイツや日本、タイ、中国、米国など主要拠点の品質管理体制を統一するほか、生産情報を一元化。各拠点で対応しきた調達構造を見直し、ハウジングやインペラなど部品の集中購買を推進する。一連の施策で18年度までに営業利益率を10%以上に高める。

 ターボチャージャーは高圧力の空気をエンジンに供給し、出力を高め、燃費改善や排出ガスのクリーン化に貢献。最新ディーゼルエンジンでは必須で、近年はガソリンエンジンの出力を維持しながら小排気量化を可能とする技術として普及する。主要取引先のVWがディーゼルエンジンの排出ガス不正問題に揺れるが「ガソリン車向けに増産要請がある」(IHI幹部)という。
日刊工業新聞社2016年1月14日機械面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
薄利多売にならないよう、販売計画とともに両社のコストコントロールに注目。

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