“世界一”が目白押しのドバイの新たな目玉「未来博物館」の全貌
建国から50年を超えたアラブ首長国連邦(UAE)の一つの首長国「ドバイ」。UAEの中では経済や観光面をリードし、世界一高いタワー、世界一大きな人工島、世界一の水量を誇る噴水など、きらびやかなスポットがメディアでクローズアップされる。このコロナ禍において、いち早く観光客や移住者の受け入れの再開を決定。2022年5月時点では、UAEが認定するワクチンを2回以上接種し、QRコード付きのワクチン接種証明(英語)を提示する、または出国前のPCR検査の陰性証明書の提示のみで入国できる。UAEの中では経済や観光面をリードしているだけに、見どころはたくさん。
前編は2022年2月22日にオープンした「未来博物館」(The Museum of the Future)を紹介したい。
2071年が意味するものとは?
4月下旬のドバイはすでに夏であり、日中は40度近くまで気温が上がる。2022年は4月2日より5月1日までイスラム教のラマダン(イスラム暦の9月)期。イラスム教徒の義務により、夜明けから日没までイスラム教徒は水も食べ物も口にしない断食を行うため、昼間は街が静か。しかし、今年は海外旅行がしやすい地域として注目を浴び、ドバイには大勢の観光客が押し寄せていた。
ドバイといえば、冒頭の通り、“世界一”のスポットが目白押し。2022年は「世界でもっとも美しい建物」の一つと呼ばれる「未来博物館」が、新しい観光スポットの目玉となっている。そのコンセプトは「2071年の未来を体感するアトラクション&シアター」であり、今後人類を待ち受けるテクノロジーを知ることができる。
では、なぜ2071年の未来なのか?
「2071年はUAEの建国100年にあたる記念すべき年です。半世紀前までは、漁村と砂漠だったUAEにとって、我々の希望、野心、運命の象徴のような年。今後、科学の発展や時流に合わせて展示をアップデートいくでしょう。当館は“生きる博物館”なのです」と、博物館を構想した「ドバイ未来財団」の最高責任者・カルファーン・べルホール氏は言う。ちなみに、ドバイ未来財団は、巨大な3Dプリンターオフィスやスマートシティづくりを推進している。
未来博物館の特徴的な外観は、人間の“目”のようにも見える。高度なロボット技術によって、梁を網の目状に組み合わせて建物を自立させているので、柱は一本も使っていない。建物の高さは77mで中は7フロア。1024枚のステンレス製の壁面を覆う窓はアラビア文字の形になっており「私たちは何百年も生きられない。しかし、私たちの想像力が産んだものは、私たちが亡くなった後も遺産となり残り続ける」と書かれている。これはドバイ首長のムハンマド・ビン・ラーシッド・アール・マクトゥーム殿下の言葉から引用。未来博物館の存在意義を表す言葉といえそうだ。
月面で産む次世代のクリーンなエネルギー
それでは、50年後の未来に向かって旅に出よう。案内してくれるのは、AYAという名のAI(人口知能)のガイドだ。
まずは宇宙船「ファルコン」号に乗って地球から飛び出し、宇宙ステーション「OSSホープへ。ここは、壮大なエネルギー計画「SOL(太陽)プロジェクト」の指令センターだ。月に無数のソーラーパネルを設置し、そこで集めた太陽光をレーザービームのように地球の拠点へ送るというシステムを構築する。
「月は地球と違って大気がないので、太陽光が直接月面に降り注ぎます。たとえ地球からは見えない“月の裏側”であっても! だから月全体にソーラーパネルを設置すれば、地球よりも格段に効率よく太陽光を集めることができるのです。二酸化炭素を排出する石油や天然ガスなどの化石燃料に依存せず、クリーンなエネルギーを安定的に産み出すことが可能です」(AYA)。
UAE全体は世界第7位の産油国(2020年)だが、ドバイではほとんど石油が採掘されない。世界各国が脱炭素社会に向かい、ドバイがオイルマネーに依存していない背景があるだけに、このプロジェクトはより一層の現実味を帯びる。ムハンマド殿下の「2050年には二酸化炭素の排出量を“世界一”抑える」という宣言もプロジェクトを後押ししそうだ。
地球の寿命を伸ばすための、近未来技術のあれこれ
その後“気候変動とテクノロジー”をテーマにした「癒しの研究所」へ。2022年現在、南米のアマゾン川付近では、大規模な伐採や山火事により、森林が失われつつある。しかし、50年後には森が再生されており、雨がシャワーのように降り注ぎ、森に水が蓄えられれば、伐採による洪水や山火事も起こりにくくなるので、良い循環になる。人類にとっては、森林の樹々は“癒し”の要素でもあるのだ。
別のエリアでは、ありとあらゆる動植物のDNA情報が展示され、その様子は圧巻の一言に尽きる。専用の端末をかざすと、展示物が白色に変われば50年後も健在で、赤になれば絶滅の危機に瀕しているという証拠だ。
「選択的交配に近い方法で、どんな環境においても生存できる強い品種に変換可能。将来地球以外の惑星で生活している人類のためにも有益なテクノロジーです」(AYA)。実際に、地球の寿命を伸ばすために、火星に人類を移住させる計画「エミレーツ・マーズミッション」も進行中だ。
一方、これら50年後の未来展示の先には、心身を健康にするために、五感を研ぎ澄ます訓練をする「AL WAHA」(オアシスの意)という名のウェルビーイングエリアが広がる。どれほど科学が進歩しようと、我々の心と肉体の健康が一番であることは今も昔も変わらないのだろう。
どこか浮世離れしたゴージャスなスポットばかりがメディアに取りざたされるドバイ。しかし究極の贅沢も、地に足が着いたサスティナブルな取り組みも、どちらも両立できることを未来博物館は暗示している。
「当館はドバイとUAEが世界に提供する新しい科学のランドマークでもあります。科学者たちは、先端の科学はもちろん、開発や人道面などのあらゆる分野で未来を研究し、課題を解決するためのアイデアを集めてデザインします。当館はその動向について深い議論を行うためのプラットフォームなのです」(前出のベルホール氏)。
未来博物館の役目は、今始まったばかりだ。(東野りか)