重点はどこ…自動車・電機・通信業界の設備投資計画をまるっと点検
コロナ禍からの経済回復が進む中、国内企業は2023年3月期に高水準の設備投資を計画する。次世代技術や増産を目的として自動車、自動車部品、電機、携帯通信、造船・重機、工作機械の各業界ともに投資額は前期を超えそうだ。ただ過去最高の投資計画から、コロナ禍前に届かない水準の計画まで濃淡はある。業界ごとに設備投資動向を点検する。
自動車業界は車の電動化シフトに向け投資を加速している。乗用車メーカー7社(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、スズキ、マツダ、三菱自動車、SUBARU〈スバル〉)は、2023年3月期に計2兆9900億円の設備投資を計画。伸び率は前期比22・1%増と22年3月期(前期比0・1%増)を大幅に上回る。
スバルは国内生産体制の再編を表明。27年3月期までの5年間で2500億円の設備投資を計画。25年にも電気自動車(EV)の自社生産、27年以降にEV専用工場の新設と稼働を目指す。中村知美社長は「EVへの見方がこの半年で急速に変わってきた」との認識を示す。
スズキはインドでEV生産能力の増強や電池工場の新設に約1500億円を投じる。25年以降の稼働を予定し、鈴木俊宏社長は「インドのEV進展に遅れることなく準備を進める」と指摘。23年3月期の設備投資は同53・1%増の2900億円と過去最高を見込む。
電動化を中心とした投資ではトヨタが30年までに研究開発費を含め約8兆円、ホンダが約5兆円、日産が27年3月期までに約2兆円を計画する。トヨタはコロナ禍でも1兆円を超える設備投資を継続。23年3月期も2期連続の増加を見込む。
【自動車部品】完成車各社のEVに追随
完成車メーカーの方針に追随し、自動車部品メーカーも電動化分野の投資を積極化している。
トヨタ系サプライヤー上位3社のデンソー、アイシン、豊田自動織機の23年3月期の設備投資額は、合計で前期比11・0%増の7850億円を見込んでいる。
デンソーは同6・0%増の3750億円を予定する。電動化に加え、先進安全分野や環境分野への投資を強化する。電動化の加速でさらなる半導体需要増も見込まれており、設備投資額も増やしていく考えだ。
アイシンは同18・9%増の2600億円を投じる計画だ。22年に従来型のパワートレーンユニットへの新規設備投資をほぼ終え、電動化ラインへの投資に切り替える。
ジーテクトは23年3月期の設備投資額を前期比80・7%増の257億円に設定。今後10年でEV関連の研究開発と設備投資に、計700億円を充てる方針を示した。高尾直宏社長は「EVシフトを成長の機会にする」と力を込める。
【電機】半導体や空調に重点
電機大手5社の23年3月期の設備投資計画は、前期比27・7%増の計1兆6900億円を見込む。ソニーグループは同35・0%増の4700億円を計画。スマートフォンや車載などで需要が増えるイメージセンサー向けが、投資増加の主な要因としている。
日立製作所は、グループ再編により日立建機と日立金属の設備投資が減るものの前期と同水準を維持し、3920億円の見通し。設備更新の投資が例年より高い水準となるほか、脱炭素関連の投資も予定。エネルギー・鉄道分野の工場移転費用なども見込む。パナソニックホールディングス(HD)は同45・5%増の3450億円を計画。テスラ向け車載電池関連の投資や、成長分野に位置付ける空調空質事業などを含む「くらし事業」の投資が増える。三菱電機の計画は同44・4%増の2630億円。空調などの重点成長事業や品質管理関連が増える。
東芝はパワー半導体が22年度下期の生産開始を予定する300ミリメートルウエハー用生産ラインなどの増産投資を進めるほか、車載用発電機の増産、研究開発新棟の建設、ITシステムの刷新なども計画。前期比31・3%増の2200億円を見込んでいる。
【携帯通信】5G網を拡大
携帯通信3社の23年3月期の設備投資額は、前期比3・6%増の1兆8530億円の見通し。各社は第5世代通信(5G)ネットワーク拡大に向けた投資に重点を置く。
NTTドコモは同2・1%増の7130億円。1月に子会社化したNTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアを含まない旧ドコモ単体の場合、22年3月期が5481億円で、うち「3分の1の1800億程度」(ドコモ)が5Gネットワーク向け。23年3月期も同じ額の水準を維持する見込み。
KDDIは同0・5%増の6800億円。このうち、2400億円を5Gネットワークに、2000億円を法人事業や金融事業などの注力領域に振り向ける。
ソフトバンクは、電子商取引(EC)などの「ヤフー・LINE事業」を除く設備投資額が同11・1%増の4600億円。内訳は開示していないが、5Gネットワークについて「今年中に集中投資して再仕上げをする」(宮川潤一社長)方針。