“つながる工場” 国際標準化でせめぎ合い。ドイツは事例公開で弾み
FA王国日本は大丈夫か
モノのインターネット(IoT)技術の普及により工場自動化(FA)システムのオープン化、標準化が進めば、日本が強い産業機器・FA業界は大きな影響を受ける。日本勢にとっては決して引けない、国際標準をめぐるせめぎ合いが始まっている。
2015年、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)に、IoTの産業応用に関する標準化の、全体的な方向性や戦略について話し合う委員会が設けられた。ともに名称に「インダストリー4・0 スマートマニュファクチャリング」をうたう。ドイツ発のインダストリー4・0(I4・0)を織り込んだことからわかるとおり、いずれもドイツからの提案により設けられ、議長はドイツ人が務める。この分野の標準化をリードしにかかるドイツの意志がうかがえる。
具体的な標準化の工程は、まだ緒に就いた段階だ。IoTでは標準化の対象領域が非常に広範囲に及ぶ。このため対象領域を網羅し、マッピングした「参照モデル」が各団体から提案された。
ドイツのI4・0推進団体が提案したのは「RAMI4・0」だが、同じようなモデルは米国発のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)など、世界で10種類くらいが提案されている状況だ。
現在はそれぞれのモデル間で差異がどうなっているか、整合性はあるかなどをチェックしている。ISOとIECそれぞれで作業を進めており、ISOは9月、IECは6月までかけて検討。さらにその後専門委員会などを設置して、参照モデルの個々の技術の具体的な中身について話し合うことになる。
重要なのはそこからだ。国内意見のとりまとめを行う日本電気計測器工業会(JEMIMA)の石隈徹氏(アズビル国際標準化担当部長)は「日本がリードするとまではいかなくとも、絶対に受け身にならず積極的に提案していこうという機運が盛り上がっている」と話す。
日本勢はすでに、具体的な標準技術を書き込んだモデルをISOとIECの会議に持ち込み、注目を集めたという。全体の議論が終わるまでに「おそらく数年はかかるのではないか」(横河電機の小田信二氏)という膨大な作業。「自分たちのノウハウを表に出さずに、これからのモノづくりの姿をどう描き、商売にも有利なようにどう標準を決めていくか」(石隈氏)。標準化は幅広い業界が関連するだけに、一丸となって議論を進める必要がある。
再びドイツ。同国が描くインダストリー4・0(I4・0)の壮大な未来像を実現するには、10年以上かかるといわれる。シリア難民など政治問題に直面する状況下で、ドイツの歩む道にブレはないのか。
2015年11月、ドイツ連邦政府はベルリンで「国家ITサミット」を開催した。毎年行うIT関連の政治イベントだが、今回注目されたのはIoTの先進的事例である「ユースケース」が100件、公開されると言われていたからだ。
ふたを開けてみると、公開されたのはインターネットの地図サイトだった。「インダストリー4・0応用事例地図」と名付けられたこのオンラインマップ。ドイツのどこで、どういう企業が主体となってどのようなIoTシステムの開発が進んでいるかを示したもので、208件の事例が掲載されている。
「もっと明確な形でユースケースが出てくると思いきや、あまり大したものではなかった」と科学技術振興機構(JST)の澤田朋子フェローは話す。一方、ジェトロベルリン事務所の平林孝之氏は「この地図の目的は、あくまでドイツ国内向けのプロモーション。ドイツの中堅中小企業にはI4・0に懐疑的だったり、重要性を理解してなかったりする企業が多い。そうした層に対してアピールしたいのではないか」と解説する。
実際に地図を操作すると興味深いことがわかる。208件のうち、推進主体として多いのはやはりシーメンスとボッシュ。ABBやドイツテレコムなどがこれに続く。フォルクスワーゲンやダイムラー、アディダスといったドイツを代表する企業が率いるプロジェクトもある。
確かに、この地図だけからは個々のプロジェクトの具体的な中身はわかりにくい。しかし、208にものぼるI4・0関連システムの開発が着々と進んでいることは事実だ。
そしてやはり気になるのが、日本勢の影が薄いこと。地図に示されたプロジェクトの中には、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が担当するものもある。一方で日本企業の名前は見当たらない。欧州で商売するグローバル企業なら、現地の大きな潮流にも積極的に関わってもよいのではないか。
4月には、再びハノーバーメッセが開かれる。I4・0とIoTの一大イベントとなったこの展示会。今年は「パートナー国」として米国が選ばれた。ドイツと米国が組んであらたにどのような取り組みを打ち出してくるのか、注目される。
※日刊工業新聞は1月1日から5回に渡って「つながる工場元年」を掲載。その連載からの抜粋です。
三菱電機は2016年度から国内の自社工場を対象に、モノのインターネット(IoT)技術を使った生産革新を本格的に始める。データを収集・分析する生産システム「e―ファクトリー」を中核に据え、発電機やパワー半導体の工場など少なくとも10―20程度の工場で着手する。1年かけてコスト削減などの効果を実証し、17年度から生産革新の仕組みを外販する。
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対象領域を網羅、ドイツの意志
2015年、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)に、IoTの産業応用に関する標準化の、全体的な方向性や戦略について話し合う委員会が設けられた。ともに名称に「インダストリー4・0 スマートマニュファクチャリング」をうたう。ドイツ発のインダストリー4・0(I4・0)を織り込んだことからわかるとおり、いずれもドイツからの提案により設けられ、議長はドイツ人が務める。この分野の標準化をリードしにかかるドイツの意志がうかがえる。
具体的な標準化の工程は、まだ緒に就いた段階だ。IoTでは標準化の対象領域が非常に広範囲に及ぶ。このため対象領域を網羅し、マッピングした「参照モデル」が各団体から提案された。
ドイツのI4・0推進団体が提案したのは「RAMI4・0」だが、同じようなモデルは米国発のインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)など、世界で10種類くらいが提案されている状況だ。
現在はそれぞれのモデル間で差異がどうなっているか、整合性はあるかなどをチェックしている。ISOとIECそれぞれで作業を進めており、ISOは9月、IECは6月までかけて検討。さらにその後専門委員会などを設置して、参照モデルの個々の技術の具体的な中身について話し合うことになる。
日本は“受け身”回避へ
重要なのはそこからだ。国内意見のとりまとめを行う日本電気計測器工業会(JEMIMA)の石隈徹氏(アズビル国際標準化担当部長)は「日本がリードするとまではいかなくとも、絶対に受け身にならず積極的に提案していこうという機運が盛り上がっている」と話す。
日本勢はすでに、具体的な標準技術を書き込んだモデルをISOとIECの会議に持ち込み、注目を集めたという。全体の議論が終わるまでに「おそらく数年はかかるのではないか」(横河電機の小田信二氏)という膨大な作業。「自分たちのノウハウを表に出さずに、これからのモノづくりの姿をどう描き、商売にも有利なようにどう標準を決めていくか」(石隈氏)。標準化は幅広い業界が関連するだけに、一丸となって議論を進める必要がある。
208件の企業事例が載った「オンラインマップ」
再びドイツ。同国が描くインダストリー4・0(I4・0)の壮大な未来像を実現するには、10年以上かかるといわれる。シリア難民など政治問題に直面する状況下で、ドイツの歩む道にブレはないのか。
2015年11月、ドイツ連邦政府はベルリンで「国家ITサミット」を開催した。毎年行うIT関連の政治イベントだが、今回注目されたのはIoTの先進的事例である「ユースケース」が100件、公開されると言われていたからだ。
ふたを開けてみると、公開されたのはインターネットの地図サイトだった。「インダストリー4・0応用事例地図」と名付けられたこのオンラインマップ。ドイツのどこで、どういう企業が主体となってどのようなIoTシステムの開発が進んでいるかを示したもので、208件の事例が掲載されている。
「もっと明確な形でユースケースが出てくると思いきや、あまり大したものではなかった」と科学技術振興機構(JST)の澤田朋子フェローは話す。一方、ジェトロベルリン事務所の平林孝之氏は「この地図の目的は、あくまでドイツ国内向けのプロモーション。ドイツの中堅中小企業にはI4・0に懐疑的だったり、重要性を理解してなかったりする企業が多い。そうした層に対してアピールしたいのではないか」と解説する。
実際に地図を操作すると興味深いことがわかる。208件のうち、推進主体として多いのはやはりシーメンスとボッシュ。ABBやドイツテレコムなどがこれに続く。フォルクスワーゲンやダイムラー、アディダスといったドイツを代表する企業が率いるプロジェクトもある。
GE、ファーウェイ・・日本企業の名前がない
確かに、この地図だけからは個々のプロジェクトの具体的な中身はわかりにくい。しかし、208にものぼるI4・0関連システムの開発が着々と進んでいることは事実だ。
そしてやはり気になるのが、日本勢の影が薄いこと。地図に示されたプロジェクトの中には、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が担当するものもある。一方で日本企業の名前は見当たらない。欧州で商売するグローバル企業なら、現地の大きな潮流にも積極的に関わってもよいのではないか。
4月には、再びハノーバーメッセが開かれる。I4・0とIoTの一大イベントとなったこの展示会。今年は「パートナー国」として米国が選ばれた。ドイツと米国が組んであらたにどのような取り組みを打ち出してくるのか、注目される。
※日刊工業新聞は1月1日から5回に渡って「つながる工場元年」を掲載。その連載からの抜粋です。
三菱電が自社20工場でIoT活用し生産革新の実証へ
三菱電機は2016年度から国内の自社工場を対象に、モノのインターネット(IoT)技術を使った生産革新を本格的に始める。データを収集・分析する生産システム「e―ファクトリー」を中核に据え、発電機やパワー半導体の工場など少なくとも10―20程度の工場で着手する。1年かけてコスト削減などの効果を実証し、17年度から生産革新の仕組みを外販する。
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日刊工業新聞社2016年1月12日1面