実質100万円台で普及なるか…日産・三菱自が新型「軽EV」に込めたこだわり

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岡山県倉敷市の三菱自水島製作所で開いた新型軽EVのオフライン式(中央左が日産の内田社長、同右が三菱自の加藤社長)

日産自動車と三菱自動車が、電気自動車(EV)シフトに向け再びアクセルを踏む。EVの先駆者を自認する両社が軽EVを共同開発し、今夏にそれぞれ発売する。実質100万円台の価格帯や登録車並みの加速性能を実現。EVという新規軸を打ち出しただけでなく、既存の軽が抱える課題の克服も図った。政府は2035年に乗用車の新車をすべて電動車にする目標を掲げる。国内新車販売の4割弱を占める軽市場でEVの普及に弾みをつけられるか注目される。(西沢亮)

共同開発、今夏投入

日産の内田誠社長は20日に開いた新型軽EVのオフライン式で「軽の概念を覆す力強い加速などを兼ねた車。企業連合を象徴する日本におけるEVのゲームチェンジャーになると確信している」と強調。三菱自の加藤隆雄社長は「普通の軽と遜色ないご負担で購入いただける。特別な車ではなく、今安心して気軽にお選びいただける選択肢となった」と述べた。

両社が満を持して投入する新型軽EVは日産が開発を主導。日産は「サクラ」、三菱自は「eKクロスEV」として発売する。

最大出力47キロワットの駆動用モーターを採用。最大トルクは同じ出力のエンジンを搭載した既存の軽「デイズ」と比べ約2倍の195ニュートンメートルに高めた。急な坂道でもゆとりある走りを実現したという。またモーターの搭載位置を最適化する新構造の採用で振動を抑え、発進時に車室内に響く音をデイズと比べ3分の1以下に抑えた。車両設計では、後席の下のスペースの活用などで電池を床下に効率的に搭載。全長や室内の高さをデイズと同様とし、広々とした車内空間を確保した。

電池容量は20キロワット時で充電1回当たりの航続距離は最大180キロメートル。日産によると自家用車の1日の走行距離は半数超が30キロメートル以下。日曜の夜に家庭で満充電すれば、月曜から金曜日まで充電することなく利用できる。また自動駐車機能を採用するなど運転支援機能も充実。日常での使い勝手に徹底してこだわった。

企業連合の強みを生かし部品の共用も追求した。電池は日産のEV「リーフ」と同じリチウムイオン電池セルを採用。モーターなども両社の複数の登録車と共通化した。

両社による量産効果を最大化し消費税込みの価格は約233万円からを実現。政府補助金を活用した実質購入価格は約178万円からとなり、さらに自治体の補助金適用も見込まれる。日産の坂幸真車両開発主管は「多くの方々にご利用いただける価格を実現できた」と自信を示した。年間販売目標は日産はデイズと同等の約5万台、三菱自は1万台。

【日産、軽最上位に位置付け 40代の主婦層中心】

日産の新型軽EV「サクラ」

新型車の性能は同じだが、売り方は両社で大きく異なる。日産はEVラインアップの中で、技術を結集した「アリア」を頂点とし、その下のリーフに次ぐ導入モデルとしてサクラを位置付ける。一方、広い車内や静かで機敏な走りが既存の軽の水準を遥かに上回っているとし、サクラは軽の最上位モデルとして訴求する。同社は「40代の主婦層を中心に軽のガソリン車からの買い換え需要を取り込みたい」としている。アシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は「アリアとサクラでリーフ以来となる2度目の革命をEVで始める」と意気込む。

【三菱自、特別視せず 普段使いに適して販売】

三菱自の新型軽EV「eKクロスEV」

一方、三菱自は軽商品群「eKシリーズ」の1車種としてeKクロスEVを売り込む。同社にとって新型軽EVは09年に投入した「アイ・ミーブ」以来、軽乗用車では2車種目のEVとなる。アイ・ミーブは当初、電池容量16キロワット時で航続距離は約140キロメートル。価格は約460万円だった。eKクロスEVではその後の技術開発で当時の約半額となる普及価格帯などを実現。同社は「EVを特別視することなく、普段使いに適したeKシリーズの一つとして販売したい」と強調。その狙いは車名だけでなく、eKクロスを踏襲した外観にも表れる。

生産は三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)が担う。軽の組み立てラインでガソリン車とEVを混流生産する。新型軽EVの生産では電池パックの一貫生産体制の整備や車台製造ラインの増設などに約80億円を投じた。

三菱自の水島製作所でガソリン仕様の軽と、軽EVを混流生産する

減速機の生産工程では歯車と、歯車の軸を圧入した後に仕上げ加工をする手法を採用。振動につながる歯車のかみ合わせのわずかなズレをなくした。従来は仕上げ加工後に歯車と軸を圧入していたためわずかなズレが生じ、振動や音の要因となっていた。両社の共同出資会社NMKV(東京都港区)の生産プロジェクトグループの平井泰忠部長は「水島製作所の現場担当者の提案を受け、アイ・ミーブで培った要素技術を取り入れた」と明かす。新型軽EVの特徴となる静粛性をモノづくりでも支える。

脱炭素―車各社開発急ぐ 軽EV市場拡大へ

脱炭素に向け、国内新車市場の4割弱を占める軽のEVシフトは欠かせない。ホンダは24年、ダイハツ工業やスズキは25年までの投入に向け軽EVの開発を急ぐ。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「軽トップのダイハツやスズキが苦労する中、日産と三菱自が過去の教訓を生かし、軽EVに先鞭(べん)をつけた意味は大きい」と評価する。

普及に向けた課題は価格で、登録車で人気のトヨタの小型車「ヤリス」はハイブリッド車(HV)でも200万円を切る。ある車メーカー幹部は「生活の足となる軽でEVが普及するには100万円を切らないと難しい」と見る。

また中古車価格の動向も注目される。一般的に軽は中古車価格が高く、利用者にもそうした認識が広がる。一方、EVは電池性能の劣化への不安などから中古車の価格が下がる傾向にある。SBI証券の遠藤功治シニアナリストは「軽EVの中古車価格がどう形成されるかも売れ行きを左右することになる」と指摘する。

一方、軽EVは二酸化炭素(CO2)排出量を減らす目的で、軽や小型車を営業車として使用している企業からの切り替え需要が期待される。こうした法人需要をとらえ、そこから個人需要の開拓へとつなげられるかが、軽EVの普及を左右しそうだ。

日刊工業新聞2022年5月23日

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