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サプライチェーンのCO2排出量把握、JEITAが算定ルール構築

電子情報技術産業協会(JEITA)のワーキンググループ(WG)は、サプライチェーン(供給網)を構成する企業間で二酸化炭素(CO2)排出量を伝達するルールの検討状況を報告書にまとめた。部材や部品1点ずつの排出量の算定を理想としつつ、実際の運営で想定される課題を洗い出した。7月から実証を開始し、業種横断で排出量を伝達する仕組みの構築を目指す。(編集委員・松木喬)

JEITAは2021年10月、グリーン×デジタルコンソーシアムを立ち上げ、サプライチェーン排出量の算定方法を検討する「見える化WG」を設置した。報告書はWGがこれまでの議論をまとめた。

WGには電機メーカー以外に自動車やIT、電力、保険会社など有志約70社が参加する。稲垣孝一主査(NEC)は「まずは理想の姿を出し、課題を整理した」と検討の進捗を説明する。

報告書は理想として「企業間で一次データを共有」を示した。一次データとは排出量の実測値だ。サプライチェーン排出量の報告を求める「スコープ3基準」があり、大企業を中心に算定してきた。ただし、取引先の排出量の把握には二次データ(原単位=標準値)が使われてきた。

例えば高機能樹脂は購入額100万円当たりの排出量が6・78トンと決まっている。大企業は1億円分を調達すると取引先が678トンを排出して生産したと推定できた。取引先に聞く必要がなく便利な半面、同一製品ならA社製もB社製も同じ排出量になる。A社が再生可能エネルギーを活用して排出量を減らしていても削減努力は反映されない。さらに「大企業も調達額を減らさないと、排出量を削減できない」(稲垣主査)という欠点があった。

そこで取引先1社や部品・部材1点ごとの一次データのニーズが生まれてきた。報告書では“理想像”としてセンサーを使って取引先の生産工程から排出量を自動計測する方法が示された。採取したデータは共有基盤に蓄積され、企業が算定に活用できる。

ただ、運営に課題が山積する。一つが排出量を伝える取引先を限定するルール整備だ。排出量を機密情報にしたい取引先は限定公開、削減努力を示したい取引先は積極的な公開を望むと考えられる。このほかにも不良品の製造で生じた排出量や、工場以外の本社や保管倉庫の排出量の扱いも課題に挙がった。

また過渡期として一次と二次データが混在すると想定されるため、識別や計算に使う原単位の共通化なども検討事項だ。

国内での議論と並行し、「グローバルでも共通できるものを目指す」(稲垣主査)。WGのメンバーは、スコープ3基準の策定に関与した持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)と意見交換の場を持った。

課題が明らかになったことでサプライチェーン全体のCO2量の算定に向けた議論に弾みがつく。ただ、これまで算定経験がない中小企業も排出量の把握が必要となる。算定や伝達の負担を軽減しないと、サプライチェーン全体のコスト上昇を招き、日本の産業界の競争力が低下する。負担を抑え、削減努力が報われるルールが望まれる。

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
サプライチェーンでの伝達と言えば、化学物質情報をやり取りする「ケムシェルパ」があります。CO2排出量の伝達で連携はあるのでしょうか。とにかく削減努力が評価されるようになるのは良いことと思います。次はコストをかけてまで削減した努力が報われる必要があります。排出が少ない商品が選ばれる商習慣が必要でしょう。

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