トヨタ系「パワー半導体」で攻勢、GaN種結晶を量産試作
豊田合成は窒化ガリウム(GaN)パワー半導体の市場形成に向け、GaNの種結晶(種となる小さな単結晶)の量産試作を始める。社内の大型炉で高品質GaN結晶の成長を実現しており、6インチや8インチの大口径化と試作のための量の確保を急ぐ。GaNパワー半導体は自動車の電動化やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に欠かせない次世代技術。同社は100キロ―1メガワット(メガは100万)の出力と1メガヘルツの動作周波数を実現するGaNデバイスの開発を目指す。(名古屋・川口拓洋)
パワー半導体は電力の制御などを担い、その中でGaNはシリコンや炭化ケイ素(SiC)を利用した半導体に比べ対応できるエネルギー量(バンドギャップエネルギー)が大きく、高電圧に対する耐性が高い。
また一般的に、電力は直流から交流に変換するたびに一部が熱として失われる。100ワットの電流を流した場合、既存のシリコンでは95ワットに低減するがGaNでは99・5ワットが残る。さらにGaNは高周波駆動が可能で、オンとオフの切り替えで生じる電圧抵抗の時間を減らせる。
豊田合成は1986年からGaNの関連技術である青色発光ダイオード(LED)をノーベル賞受賞者の赤崎勇氏などと開発。04年には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトでGaN基板の作製に乗り出し、10年にはパワー半導体開発にも着手している。
18年からは環境省のプロジェクトに参画し、オープンイノベーションで開発を加速。大阪大学とはナトリウムとガリウムを混合した液体金属の中でGaNの結晶を成長する「ナトリウムフラックス法」で、6インチのGaN種結晶に成功した。
GaNの普及で大きな障害となるのはコストだ。条件にもよるが現状では2インチのGaN基板は数十万円程度となり素子の取れ数は50個程度となる。一方、6インチ基板では約16倍の800個が取れる計算。業界全体の認識として、6インチで10万円を切と市場競争力が出てくるという。
22年からは新たな環境省のプロジェクトとしてGaNパワー半導体の開発が採択された。パナソニックや阪大、名古屋大学とGaNウエハーを用いた高効率インバーターの開発を進める。
豊田合成では種基板にGaN結晶(バルク結晶)を育成する「GaN オン GaN」の作製にも乗り出した。同社は世界最大の結晶育成炉を保有し、種結晶を作製しているが実用化を加速するためにも新たな大型炉の導入も模索する。基板だけでなく半導体となる素子化も同時並行で手がけ、数年内にモビリティーやエネルギー事業者などがGaNの試験をし易くする「性能評価ボード」の提供も視野に入れる。
取締役執行役員の石川卓開発本部本部長は「一つのパワー半導体で少しでも電力を低減できれば、何千何万と利用された際の削減量は相当なものになる。モビリティーだけでなくスマートホームや医療・健康などに対しても我々のできることは広がる」と開発意義を語る。