鹿島・竹中・清水建設が手を組んだ…異例の連携は「3K」を払拭できるか
建設業界の技術者が、ライバル企業との技術連携やスタートアップとの協業を加速している。建設業は中長期に少子・高齢化による作業現場の担い手不足と需要減少が大きな課題だ。デジタル技術を駆使して開発したロボットや自動化システムを活用し、協力会社(下請け業者)の職場環境の改善につなげ、3K(きつい・汚い・危険)職場のイメージ払拭と建築業の魅力向上を目指す。新たな製品やサービスの開発にもつなげる。(編集委員・山下哲二)
【施工ロボ・IoT技術開発】共通課題解決でコスト減
2021年9月、鹿島、竹中工務店、清水建設など31社の国内建設業・関連業者が建設施工ロボットとIoT(モノのインターネット)分野の技術に関する共同事業体「建設RXコンソーシアム」を設立した。国内産業としては異例のライバル企業による大規模な技術連携となる。組織は4月末現在、ゼネコンで構成する正会員23社、IT企業やゼネコン下請け専門業者(サブコン)など50社の計73社に急拡大した。
設立の狙いについて、伊藤仁会長(鹿島専務執行役員)は「建設業界の魅力向上を目指す。作業職場の環境改善による担い手確保や施工系人材の不足の解消だ」と説明する。建設業は他の業種に比べて、低収入で残業が多いのが課題。24年4月には建設業でも残業規制を導入する。建築現場のデジタル化・自動化で生産性向上を推進し、作業員らの負担軽減が急務となっている。国内建設需要は、少子・高齢化の影響で伸び悩むとみられ、十分な研究開発費の確保も難しくなる可能性もある。
コンソーシアムではロボットやデジタル技術に特化し、開発テーマごとに設置した分科会に、会員企業の担当者らが任意で参加し開発に当たる。タワークレーンの遠隔操作、自動搬送システム、照度測定、コンクリート打設、ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)の共通化などがテーマとなるが、飛行ロボット(ドローン)やウェアラブル機器など身近な既製品の活用も検討する。
施工ロボットやデジタル技術の共同開発に絞ったことに、伊藤会長は「各社が共通したIT企業などと協業し類似した技術開発を進めているが、その技術に大差はない。共同で開発し量産できればコストが削減できる」と話す。アプリケーション(応用ソフト)系の開発についても「どこの現場に行っても同じ管理ができれば生産性が向上する」(同)と期待する。
【参加企業の拡大目指す】独自性尊重で競争環境確保
コンソーシアムは、竹中工務店の村上陸太常務執行役員の呼びかけによる鹿島との技術連携に、清水建設が参画した組織が発展。3社が幹事社となり設立した。目的に賛同する建設業、関連企業が多く参画し設立時の2倍超に増加したが、独自技術を持つスーパーゼネコンの大林組や大成建設が参画を見送っている。「多くの参加で開発には拍車がかかりテーマも増やせる。コスト低減効果が高まり、より協力会社に支援できる」(同)と建設業界全体の取り組み、貢献になることを強調する。
一方で“協調と競争”の観点から各社の独自性、優位性を尊重する。「協調領域をしっかり進めるのと同時に独自技術を明確にすることで、より競争できる環境をつくることができる」(同)とみる。
ただ開発の進め方で課題も見える。開発の手順や費用負担、開発品の優先活用などで不満が生じないよう実際の開発に当たる各分科会で選ばれたリーダーの手腕が問われる。
伊藤会長は「技術者が魅力的な建設業にするため、ライバルが共通して新しいものを作り上げる新たな試みとなる、挑戦する」と意気込みを述べる。
【異業種・新興と協業】次世代オフィス・スマート都市共創
竹中工務店はオープンイノベーション拠点「COT―Lab(コトラボ)」を相次ぎ設置している。他産業の大手企業やスタートアップとの協業の場として、技術・事業開発によりデジタル変革(DX)への対応や脱炭素社会への転換など社会課題を解決するのが狙い。都内と大阪に技術者を中心とした10人程度を配置したサテライト拠点三つを設置。変化が激しい建築産業の中で、短期間で先端技術の開発を推進する。海外の研究拠点でも展開を目指す。
建築分野に特化する竹中工務店の村上陸太常務執行役員は「建築は生活空間を提供しておりニーズは多様で変化が激しい。前に出て研究開発を進める必要がある」と話す。
同社は2019年、研究中核拠点である竹中技術研究所(千葉県印西市)の改修に伴い「COT―Lab 竹中」を設置。建設の基礎領域に加え、未来先端・環境社会の領域で専門人材を配置する。ここでは社外へのビジョン発信や共創パートナーとのマッチングが主な役割で、大企業の共創にスタートアップと連携を進めている。
COT―Lab 竹中のサテライト拠点、第1号が「COT―Lab 大手町」。東京・大手町ビルのビジネスイノベーションスペース「インスパイアード ラボ」に設置。健康志向や屋内サービスロボットの活用を目指した革新的なまちづくりをテーマとし、同ラボに入居するスタートアップや大企業、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアを対象に活動する。店舗データや人流データ、購買データなどから生まれる価値を顧客に提供する仕組みづくりを目指す。協業によりデータを増強し、より多くの情報提供することで付加価値を高める。
「COT―Lab 新橋」は1932年に完成し、先頃シェアオフィスとして生まれ変わった東京・新橋の一等地に建つ「堀ビル」に入居する。竹中が歴史的建築物を有効活用する「レガシー活用事業」の事例でもある。ここでは次世代オフィスの創造・展開に関する技術や事業の開発がテーマ。例えばコクヨ、グッドルーム(東京都渋谷区)などとワークショップを行い、在宅を含めた分散型オフィスのあり方など直面する課題解決を探る。
また大阪の「COT―Lab グランフロント」では、グランフロント大阪(大阪市北区)内に入居し、関西のスマートシティー構想に参画し、関連技術やサービスの実証・実装を推進する。スマートシティーに求められるデジタル技術を駆使した利便性に加え、脱炭素や健康の効果を得られる空間創出に向けて共創・実証を推進し、関連の情報を発信する。産学連携による建物やまちのアプリ開発を促進し、人とロボットが共創する未来社会の実現を目指す。
相次ぐサテライト拠点の設置について、村上常務執行役員は「社会課題の解決につながる技術開発や事業開発は、社内の視点・体制だけでは十分でない」とその役割の重要性を説く。また、日欧米などに設置する「GRIT」は海外の最先端技術を持つスタートアップの探索とチャンネルを構築する拠点だが、米シリコンバレーなどをはじめ、独、シンガポールでもCOT―Labの設置を目指す。グローバル展開で優位に進める狙いもある。