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ローミング終了は時期尚早か、自社回線参入2年「楽天モバイル」を点検する

ローミング終了は時期尚早か、自社回線参入2年「楽天モバイル」を点検する

都内では原則ローミングを終了済みで楽天回線につながるようになったが、地下や屋内ではつながらないことも

楽天モバイルが自社回線による携帯通信サービスに本格参入して2年。第4世代通信(4G)人口カバー率は96%を超え、既存の携帯大手3社に迫りつつある。4月以降、KDDIから回線を借りる「ローミング」を47都道府県で順次終了し、2024年までに全て自社回線に切り替える計画だ。収益改善が期待される一方、屋内や地下で通信がつながりにくい状況への対処など、サービス品質の向上が問われ続ける。(苦瓜朋子、張谷京子)

「数年以内に国内でナンバーワンのキャリア(通信事業者)になる。その目標は一歩も譲れない」―。3月30日付で楽天モバイル社長に就任した矢沢俊介氏は、こう力を込めた。

2月時点の契約数は仮想移動体通信事業者(MVNO)との合計で550万件。また、本格参入直前の20年3月時点では23・4%にとどまっていた人口カバー率は22年2月末に96・7%へ拡大した。

楽天モバイルは自社回線エリアを整備するまでの間、KDDIとのローミングにより携帯通信事業を行っている。提供期間は26年3月末までだが、基地局建設の進捗(しんちょく)により屋外では23年、屋内でも24年にローミングを終了し、全面的に自社回線に切り替えたい考えだ。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は「KDDIのローミング費用が高すぎる」と繰り返し述べており、終了により同社が抱える赤字の縮小が期待される。

一方、楽天モバイルは障害物を回り込みやすいなどの特性を有する「プラチナバンド」と呼ばれる電波を持たず、自社回線エリアとしている場所でも屋内や地下では電波をつかめないことがある。屋内用の小型基地局を設置するなどの対策を講じているが、奥まった店舗内ではスマートフォン決済が使えないなど不満の声も多い。

MM総研(東京都港区)の横田英明常務は「(大手3社の人口カバー率である)99%との差以上につながりにくさを感じているユーザーが多いのでは。ローミング終了は時期尚早だ」と指摘する。

楽天モバイルは、大手3社が持つプラチナバンドを再配分して23年から利用できるよう求めている。横田MM総研常務は「総務省側ではどこに(電波を)割り当てるか、大体の目星がついているのでは。(楽天モバイルの)要望する時期より大きく遅れることはないだろう」とみる。

楽天モバイルは人工衛星を打ち上げて宇宙から日本全土をカバーする「スペースモバイル」も23年以降に開始する計画。山間部などを含めて100%のエリアカバーが可能になるという。「基本的に99%は地上の基地局で、残りの1%を人工衛星でカバーするのが効率的」(矢沢社長)とし、まずは地上基地局の建設を急ぐ。

同社が“第4の事業者”として参入し、市場全体の料金引き下げに一定の役割を果たしたのは確かだ。だが、通信事業者の最重要課題である通信品質の向上なくして3社の牙城を崩すのは難しい。他社が5Gに主戦場を移す中、自社の電子商取引(EC)やポイントサービスといった経済圏を活用して顧客を獲得しつつ、通信エリア整備を迅速に進められるかが問われる。

日刊工業新聞2022年4月8日

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