【2016キーマン】パナソニック・津賀一宏社長「M&A、“伸びる”分野に」
東芝やシャープの事業には興味を示さず
電機業界では巧みなBツーB(企業間)事業戦略で好業績をたたき出す企業が増えている。けん引役はインフラ関連や車載、電子部品など。大胆な構造改革を断行した企業にも明るさが戻った。ただ存続の危機に陥った企業を起因に多様な「日の丸連合」構想が浮上し、業界再編の動きもある。一方、世界経済は米国一極頼みで、低調な中国や欧州はリスク要因。混迷も予想される2016年をどう戦うのか。パナソニックの津賀一宏社長に聞いた。
―16年度に始まる次期中期3カ年計画の方向性は。
「現中計は本社スリム化や一業に専念して最良結果を出す事業部制を復活し、課題事業にはメスを入れた。家電以外に自動車や住宅、サービス産業でも貢献できる体制にし、地域軸視点も含めた事業強化の優先順位を定めた。結果はこれからだが、本格成長へとかじをきり、弱みを補完し、当社の強みとうまくシナジーが得られるM&A(合併・買収)などを積極化していく」
―売上高成長による利益創出が主眼です。
「伸びている事業と、高シェアでも市場が縮んで厳しい事業がある。冷静に見極め、伸びる事業にリソースを振る。成長の見込めない分野で頑張りすぎる部分がある。例えば固定電話。携帯電話が普及し、厳然たる需要と顧客がいるが、縮小市場で戦わざるを得ず、シェアアップにも上限がある。電話はBツーC(対消費者)だが、強みを生かしてホームネットワークを積極的にやるなど、BツーB(企業間)を重視すれば、短期で多くの商談が取れる」
―大規模な6事業部の成長が、18年度売上高目標10兆円のカギです。
「ライティング、ハウジング、パナホームの住宅関連三つは期待通りの進捗(しんちょく)。インフォテインメントシステムは受注が堅調で心配ない。エアコンは家庭用が営業利益率5%以上だが、問題は業務用が『白字』(若干の黒字)程度。家庭用の売上高をさらに伸ばして利益を積み、リソースを業務用に投下する。ラインアップや販売ルートの強化をM&Aも含めて行う」
―特に期待するのが二次電池事業ですね。
「車載向け二次電池はハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、低価格電気自動車(EV)、米テスラモーターズなどの高級EVの四つに分かれる。ニッケル水素電池が主流のHV向けで当社は圧倒的に強く、リチウムイオン電池になっても一日の長があるのでシェアをキープしたい。HVに強い車メーカーのPHVもきっちり取る。低価格EVではシェアを分け合えば良い。EVは発展段階で過当競争するべきではなく、すべての面で韓国勢と戦う必要はない。基本的に電池は消費地生産と原材料地生産の考え方だ」
―リフォーム事業で業界トップを狙います。
「どこにリフォームを任せれば良いのか分からないのが顧客の一番の悩み。パナソニックの力を結集して、大規模から小規模まで、どのリクエストにも応えられる形をつくり、“一度ご相談ください”という姿にしていく。営業提案力を増すため、社内リソースシフト、社外からの人材採用を積極化する」
【記者の目・家電総合力で差別化】
構造改革を完遂し、“攻めの経営”にかじを切った津賀社長。各事業カテゴリーで次代の方向性を明確化し、M&Aでも単なる売上高増ではなく、持続的な成長を見据えた目利きを行っている。家電業界は再編機運が高まるが、国内唯一の総合家電メーカーとして、総合力の強みでほかの専業家電メーカーと相対する方針。東芝やシャープの事業には興味を示さなかった。
(聞き手=大阪・松中康雄)
パナソニックは21日、2016年4月に米業務用冷凍・冷蔵ショーケースメーカー、ハスマンの全株式を約1854億円で買収すると発表した。同社を通じて北米などの食品流通店舗へ冷凍冷蔵機器のほか、照明、空調などの商材を提案する。津賀一宏社長は今回の買収を「18年度売上高目標の10兆円に向けた大きな試金石」と位置づけた。ハスマンの現経営陣を留任させ、海外に本部機能を置く現地主導の事業部として「グローバル経営を加速するトリガーとする」との考えを示した。
ハスマンは北米や中南米、大洋州などで業務用の冷凍冷蔵ショーケース事業を展開。14年の売上高は約1300億円、営業利益は約90億円で、北米コールドチェーン市場で業界2位につける。一方のパナソニックは日本、中国、台湾、マレーシアで業界首位。展開地域の重複がなく、大きなシナジーが見込める。事業統合により、店舗向け冷凍冷蔵ショーケース市場で世界首位に立つとみられる。
21日付でファンドのクレイトンデュプリエ&ライスなどからハスマン株式100%を買い取る契約を交わした。パナソニック社内分社のアプライアンス社傘下として迎え入れ、コールドチェーン事業部には組み込まず、独立した事業部として同社を運営する。ハスマンのCEOと社長は留任し、ハスマンブランドも継承する。
パナソニックは食品流通業向け事業の18年度売上高目標を3000億円に定めていたが上振れは確実視される。このため、16年度スタートの中期経営計画で上方修正する見込み。ハスマンをグローバル経営の象徴的な事業部と位置づけ、パナソニックの経営のグローバル化に役立てる。
―16年度に始まる次期中期3カ年計画の方向性は。
「現中計は本社スリム化や一業に専念して最良結果を出す事業部制を復活し、課題事業にはメスを入れた。家電以外に自動車や住宅、サービス産業でも貢献できる体制にし、地域軸視点も含めた事業強化の優先順位を定めた。結果はこれからだが、本格成長へとかじをきり、弱みを補完し、当社の強みとうまくシナジーが得られるM&A(合併・買収)などを積極化していく」
―売上高成長による利益創出が主眼です。
「伸びている事業と、高シェアでも市場が縮んで厳しい事業がある。冷静に見極め、伸びる事業にリソースを振る。成長の見込めない分野で頑張りすぎる部分がある。例えば固定電話。携帯電話が普及し、厳然たる需要と顧客がいるが、縮小市場で戦わざるを得ず、シェアアップにも上限がある。電話はBツーC(対消費者)だが、強みを生かしてホームネットワークを積極的にやるなど、BツーB(企業間)を重視すれば、短期で多くの商談が取れる」
―大規模な6事業部の成長が、18年度売上高目標10兆円のカギです。
「ライティング、ハウジング、パナホームの住宅関連三つは期待通りの進捗(しんちょく)。インフォテインメントシステムは受注が堅調で心配ない。エアコンは家庭用が営業利益率5%以上だが、問題は業務用が『白字』(若干の黒字)程度。家庭用の売上高をさらに伸ばして利益を積み、リソースを業務用に投下する。ラインアップや販売ルートの強化をM&Aも含めて行う」
―特に期待するのが二次電池事業ですね。
「車載向け二次電池はハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、低価格電気自動車(EV)、米テスラモーターズなどの高級EVの四つに分かれる。ニッケル水素電池が主流のHV向けで当社は圧倒的に強く、リチウムイオン電池になっても一日の長があるのでシェアをキープしたい。HVに強い車メーカーのPHVもきっちり取る。低価格EVではシェアを分け合えば良い。EVは発展段階で過当競争するべきではなく、すべての面で韓国勢と戦う必要はない。基本的に電池は消費地生産と原材料地生産の考え方だ」
―リフォーム事業で業界トップを狙います。
「どこにリフォームを任せれば良いのか分からないのが顧客の一番の悩み。パナソニックの力を結集して、大規模から小規模まで、どのリクエストにも応えられる形をつくり、“一度ご相談ください”という姿にしていく。営業提案力を増すため、社内リソースシフト、社外からの人材採用を積極化する」
【記者の目・家電総合力で差別化】
構造改革を完遂し、“攻めの経営”にかじを切った津賀社長。各事業カテゴリーで次代の方向性を明確化し、M&Aでも単なる売上高増ではなく、持続的な成長を見据えた目利きを行っている。家電業界は再編機運が高まるが、国内唯一の総合家電メーカーとして、総合力の強みでほかの専業家電メーカーと相対する方針。東芝やシャープの事業には興味を示さなかった。
(聞き手=大阪・松中康雄)
米社買収で業務用冷蔵庫、首位に
日刊工業新聞2015年12月22日付
パナソニックは21日、2016年4月に米業務用冷凍・冷蔵ショーケースメーカー、ハスマンの全株式を約1854億円で買収すると発表した。同社を通じて北米などの食品流通店舗へ冷凍冷蔵機器のほか、照明、空調などの商材を提案する。津賀一宏社長は今回の買収を「18年度売上高目標の10兆円に向けた大きな試金石」と位置づけた。ハスマンの現経営陣を留任させ、海外に本部機能を置く現地主導の事業部として「グローバル経営を加速するトリガーとする」との考えを示した。
ハスマンは北米や中南米、大洋州などで業務用の冷凍冷蔵ショーケース事業を展開。14年の売上高は約1300億円、営業利益は約90億円で、北米コールドチェーン市場で業界2位につける。一方のパナソニックは日本、中国、台湾、マレーシアで業界首位。展開地域の重複がなく、大きなシナジーが見込める。事業統合により、店舗向け冷凍冷蔵ショーケース市場で世界首位に立つとみられる。
21日付でファンドのクレイトンデュプリエ&ライスなどからハスマン株式100%を買い取る契約を交わした。パナソニック社内分社のアプライアンス社傘下として迎え入れ、コールドチェーン事業部には組み込まず、独立した事業部として同社を運営する。ハスマンのCEOと社長は留任し、ハスマンブランドも継承する。
パナソニックは食品流通業向け事業の18年度売上高目標を3000億円に定めていたが上振れは確実視される。このため、16年度スタートの中期経営計画で上方修正する見込み。ハスマンをグローバル経営の象徴的な事業部と位置づけ、パナソニックの経営のグローバル化に役立てる。
日刊工業新聞2016年1月4日 電機面