逆風の東芝分割、成長の軸「パワー半導体」ビジネスの行方
東芝はグループ全体の2社分割計画を進めている。大株主の反対など逆風はいまだにやまないが、その相互不信は検討プロセスの不透明さに加えて成長戦略の評価に起因する部分も大きい。2023年度下期にインフラ主体の東芝から分離独立するデバイス会社「デバイスCo.」はどう独り立ちを成功させるのか。“小さな東芝”を増やして縮小均衡に陥る愚を避け、専業メーカーとしての成長戦略が問われる。(編集委員・鈴木岳志)
迅速な意思決定 2社分割の利点生かす
「強みが発揮できるパワー半導体を成長事業と位置付けており、積極的な研究開発費や設備投資の資本投下を行っていく」。子会社の東芝デバイス&ストレージ(川崎市幸区)社長を兼務する東芝の佐藤裕之代表執行役専務は成長投資にかじを切る。
まず傘下でパワー半導体製造の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)に300ミリメートルウエハー対応の新製造棟建設を決めた。増産計画は2期に分け、第1期は約1000億円かけて24年度内の稼働を予定。第1期フル稼働時の生産能力(200ミリメートルウエハー換算)は21年度比で2・5倍に増える。
まだ正式決定していない第2期はさらに約1000億円を投じ、生産能力を同3・5倍まで拡大する戦略を温めている。佐藤専務は第2期の時期について「毎月業績と需給をチェックしており、機動的に判断する。意思決定が遅いと言われてきたが、今は半導体製造装置の手当ても大変なので早めに動かないといけない」と言うにとどめる。2社分割計画の主なメリットがまさに意思決定の迅速化とされる。
ただ、世界最大手の独インフィニオン・テクノロジーズや米オン・セミコンダクター、スイスのSTマイクロエレクトロニクスなど欧米勢が300ミリメートルラインへの投資で大きく先行している。東芝が現在主力とする200ミリメートルラインと比べてウエハー1枚当たりのチップ数が格段に多く製造できるため、生産効率が上がってコストダウンにつながる。それで得た収益をさらなる投資に回す好循環こそが半導体ビジネス普遍の勝利の方程式だ。
東芝は今後増産投資で生産能力を増やしつつ、車載中心に顧客開拓を急ぐ。車載用パワー半導体事業の売上高は現状、全体の90%が国内向けだ。佐藤専務は「この実績を生かしながら、海外のxEV(電動車)市場に本格的に進出する。中国を中心とした海外で技術営業を増強し、応用技術や品質サポートを強化している」とし、海外展開を加速する考えだ。
脱炭素・EV向けSiC製増産へ
従来のシリコンに加えて、次世代材料の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の引き合いも車載中心に想定以上に増加している。「21年度にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が大きくクローズアップされ、(自動車メーカーが)アクセルを踏まないと(環境負荷の低い電動車)市場にアプローチできないことになった」と佐藤専務は次世代パワー半導体の需要急増を分析する。
東芝は現在、SiCパワー半導体を姫路半導体工場(兵庫県太子町)の150ミリメートルラインで製造している。今後は200ミリメートルラインを整備する方針だが、佐藤専務は「開発と初期量産は姫路だったが、大規模量産の場所はもう少し考えたい。複数拠点の中で検討し、必ずしも姫路にこだわらない」と語る。
分離独立するデバイス会社にはかつて、売却が検討された半導体製造子会社のジャパンセミコンダクター(岩手県北上市)もいる。「25年度の売上高計画にジャパンセミコンダクターも含まれている。岩手と大分の工場の空きスペースを有効活用する。売却予定は一切ない」と佐藤専務は断言する。
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