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ソニーとホンダがEV新会社、協業の要因になった“深い関係”

ソニーとホンダがEV新会社、協業の要因になった“深い関係”

提携を決め握手する吉田ソニーグループ社長(左)と三部ホンダ社長

ソニーグループはホンダと提携し、電気自動車(EV)の事業化に本格的に乗り出す。デジタルと融合した新たなEVの開発を掲げ、共同出資会社を2022年内にも設立する。ソニーグループは次のメガトレンドと位置付ける自動車産業で、強みとするITやエンターテインメントを活用したビジネスを展開、新たな成長基盤の構築を狙う。世界でも電機メーカーをはじめ異業種の自動車産業参入が活発化。そうした中、昭和に創業し“町工場ベンチャー”から日本を代表する大企業へと成長したソニーとホンダが始める令和での挑戦は、どんな「新しい価値」を生み出すのか。(安川結野、江上佑美子)

ソニーらしさをクルマに

「これからの10年はモビリティーが生活を変える」―。ソニーグループの吉田憲一郎社長は近未来をそう予想する。車内空間をITや通信、ネットワークを軸としたビジネスを展開する場ととらえ、車両販売だけのビジネスモデルとは違った価値を生活者に提供できると見通す。自動車産業が直面するビジネス変革において、ソニーグループが培ってきたネットワークサービスや豊富なエンターテインメントコンテンツを武器に、モビリティーへと事業領域を広げる狙いだ。

ソニーが新たに披露したスポーツ多目的車(SUV)タイプのEV試作車「VISION―S 02」

年内にEVの企画、設計、開発、販売を行う新会社をホンダと共同で設立。初期モデルを25年に発売する予定だが、製造設備は所有せずホンダの車両製造工場を活用する計画だ。

モビリティー向けサービスのプラットフォーム(基盤)はソニーが開発。イメージ・センシング、通信、ネットワーク、各種エンターテインメント技術の開発力を新時代のモビリティーサービスに結びつけていく。

一方で「車はソニーグループにとって新しい領域。パートナーが必要とずっと思っていた」と吉田社長。車両開発のノウハウや量産に対応できる製造設備を獲得するには、自動車メーカーとの連携が不可欠だった。新会社設立で、ホンダのモビリティー開発力や車体製造技術、アフターサービス運営などソニーが持たない自動車に関する技術やノウハウにアクセスできる。さらに製造施設も活用可能になり、事業を具体化する道筋が整う。

モビリティー変化・方向性を共有

ホンダの三部敏宏社長も「革新や変革の担い手は必ずしも従来の車メーカーでなく、新たなプレーヤーや果敢にチャレンジする新興企業に移行している」とみる。ソニーグループとの提携についても「モビリティーの変化と将来についての方向性を共有できると感じた」と強調する。

ソニーグループとホンダの関係は深い。吉田社長は「ソニー創業者の井深大は(ホンダ創業者の)本田宗一郎氏から多くの刺激を受け、互いに学び合ったと聞く」と説明。三部社長も「人の喜びの創造を原点とする点や、常にグローバルを視野に入れ独創性にこだわり、いまだないものにチャレンジする気風など歴史的・文化的に非常にシンクロする点が多い」と話す。創業者同士のつながりに加えて、現在までの企業文化や精神に共通する点があったことも、協業の要因となった。

ソニー創業者の井深大氏㊧と盛田昭夫氏

ソニーグループは近年、自動車業界の本格参入に向けた取り組みを強化してきた。当初、車両の理解を目的に開発を進めた自社製EV「VISION―S」は、新たなセンシング技術や第5世代通信(5G)技術を搭載し、欧州で走行試験を実施。強みである車載用の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーの性能を評価し、実用化に向けた準備を着実に整えてきた。

ソニーグループとホンダがこだわるのは「新たな価値の提供」だ。自動車は単なる乗り物ではなく、サービスを享受できる空間として進化させるのが目標だ。車内空間における通信やエンターテインメントといった新たなサービスの創出により、いかに顧客に価値を感じてもらえるかが新会社成功のカギとなる。

異業種参入相次ぐ

ホンダはソニーとの提携について「ホンダブランドの電動化戦略とは別」(三部社長)と強調する一方、「新会社で生まれた技術やサービスをホンダ側に取り込む可能性もある」とした。ソフトウエアが車の価値を定義する「ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)」の動きが高まる中、通信やエンターテインメントといった技術に強みを持つソニーの知見を取り入れることで、訴求力の高いEV開発に生かせる。

ホンダは21年4月、40年までに世界で販売する4輪車を全てEVもしくは燃料電池車(FCV)にする方針を示した。ホンダとの取引が多い部品メーカー首脳は「本気度を感じる」と評価する一方、別の部品メーカー首脳からは「生産規模など具体的な戦略が見えてこない」「サプライヤーにとってプラスとなる選択なのか」と不安視する声も上がる。

ホンダのEV「ホンダe」

電動化戦略についてホンダは、北米では米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を柱に進め、中国では22年春から中国初のホンダブランドEV「e:N(イーエヌ)」シリーズを投入する戦略を掲げる。今回のソニーとの提携は「こうしたEV戦略とは一線を画す」(三部社長)とし、ホンダ自体の電動化の方向性については「改めて発表する」と述べるにとどめた。かねて強調してきた「新しいホンダの価値」を提供できるか注目される。

日刊工業新聞2022年3月7日記事から一部抜粋

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