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環境・エネルギーなど応用期待、「ナノサイズ空間を持つ多孔質材料」研究の世界

ゼオライト、活性炭、シリカゲルに代表される、ナノサイズ空間を持つ多孔質材料は、環境、エネルギー、光学、医療、エレクトロニクスなど幅広い分野で応用が期待されている。2013年からの国の戦略目標「選択的物質貯蔵・輸送・分離・変換等を実現する物質中の微細な空間空隙構造制御技術による新機能材料の創製」に基づき、複数の大型研究が立ち上がっている。ナノ多孔体は高い比表面積と大きな細孔容積を特徴に持ち、伝統的にゼオライトが研究されてきたが、90年代からメソポーラス物質の研究が活発になった。しかしながら、本物質系の骨格組成は絶縁体のシリカ系と半導体を含む金属酸化物に限定され、応用先も触媒担体、(光)触媒、吸着などに限られる。

国の戦略に沿う形で、筆者は現在、科学技術振興機構(JST)ERATOの「山内物質空間テクトニクスプロジェクト」を進めている。

次世代多孔体の応用先として、特に日本の主要産業の一つである電気・電子系への展開が必要と考えている。持続可能なエネルギー利用と環境改善への需要により、エネルギーの貯蔵と変換がされる燃料電池、水分解技術、二次電池などの分野で研究が加速している。これらのシステム全体の性能は、主要な役割を担う触媒(または電極)の材料に大きく依存する。反応速度を遅くさせる活性エネルギーの低減や、新しい反応メカニズムの導入で全体の化学反応を効率化できる。これまで筆者らは、導電性を持つ無機種を選び出し、鋳型分子との新しい自己組織化が起きることを世界に先駆けて提案し、それまで合成できなかった組成による物質の多孔化を次々達成してきた。これらは多孔体化学の分野でブレークスルーになっている。特に導電性ナノポーラス金属は、それ自体が(電極)触媒として作用する金属表面を持ち、高い比面積も持つため、化学反応の促進に寄与する反応場が多くあり、第二世代多孔体と注目されている。

プロジェクトでは、ナノ無機固体物質を対象に、それら物質のナノ空間を開拓したり高度集積化を目指したりする「物質空間テクトニクス」を提案している。次元や組成の異なるナノ物質同士をナノ―メソの幅で高度に集積する方法論を築くことで、空間内で生じるさまざまな分子・光電磁気的な挙動の融合に基づいた機能創発を実現し、低コスト、低エネルギー使用量、低環境負荷を実現する未来物質・材料の創製へと展開していきたい。

◇物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 主任研究者・グループリーダー 山内悠輔 2007年早稲田大学理工学研究科博士課程修了、博士(工学)。同年NIMS入所。独立研究者などを経て、16年より現職。18年より、クイーンズランド大学教授を兼任。
日刊工業新聞2022年1月12日

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