TSMCが好待遇で新卒採用、九州で勃発する「人材争奪戦」の行方
台湾積体電路製造(TSMC)の工場進出をきっかけに、九州地方で技術系人材の争奪戦が勃発する。TSMCとソニーグループの合弁会社が提示する理系学部卒(2023年4月入社見込み)の給与が地域平均より7万円以上高いことが分かった。日本の半導体技術者の給与水準は国際的に低く、処遇改善は業界として本来歓迎すべきこと。ただ、人材の一極集中や労務コスト増は同業他社の経営を圧迫しかねない。
インターネットの就活情報サイトによると、TSMCとソニーGのほかにデンソーも出資予定のロジック半導体製造合弁会社「ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)」は設備機器や環境・安全・衛生、生産管理、プロセス設計などのエンジニアを募集している。
JASMの給与水準は23年4月入社見込みの学部卒で月給28万円、修士卒で同32万円、博士卒で同36万円とする。熊本県菊陽町の新工場は22年から建設に着手し、24年末までに生産を始める。約1700人の雇用創出をうたう。
厚生労働省のまとめた20年賃金構造基本統計調査によれば、九州7県の新規大卒者の平均給与(従業員10人以上の製造業)は20万8000円だった。熊本県に限定すると、21万2400円となる。
熊本県内だけでも同業の半導体メーカーは多い。JASM新工場に近いソニーGの半導体製造子会社のソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)は、同サイトによると、学部卒の給与が同22万9500円だ。ソニーG本体ですら同25万円にとどまる。
同じく県内に半導体工場を構える三菱電機とルネサスエレクトロニクスも大卒の給与がそれぞれ21万7000円であり、JASMの好待遇が際立つ。隣接する大分県や福岡県には東芝グループやロームグループなどが進出しており、県をまたいだ理系学生の奪い合いが今後激しくなりそうだ。
昨今の好景気を受けた半導体産業はJASM設立以前から慢性的な採用難に陥っている。日本政府は大手半導体メーカーが集中する“シリコンアイランド九州”の復活に向けて人手不足の解消を急ぐ。まずはTSMCなどとの意見交換を通じて求める人材像やスキルセットを明確化し、ジョブディスクリプション(職務定義書)などを作成する。その上で、九州の8高専での半導体エンジニアなどの育成を目指し、22年度めどにカリキュラム策定協議会を発足させる。また、熊本大学も半導体教育・研究センターを22年4月に設置し、企業ニーズに即した人材育成に乗り出す。
キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)や米マイクロン・テクノロジーも国内で増産投資を計画しており、全国規模で半導体人材育成のエコシステムが不可欠になる。
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