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アサヒ・キリン ビールトップ2社「2016年・我が戦略」

泉谷直木&磯崎功典 HD社長インタビュー
アサヒ・キリン ビールトップ2社「2016年・我が戦略」

アサヒの泉谷社長(左)とキリンの磯崎社長

**買収機会「行動できるように準備しておく」
 嗜好(しこう)の多様化、健康意識の高まりなどを背景に国内ビール類市場の縮小が続く中、大手各社は解決に知恵を絞っている。海外に目を転じれば、世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブが約13兆円で2位のSABミラー買収に動くなど寡占化の流れが急。国内外の激しい変化にどう立ち向かうか。アサヒグループホールディングス(HD)の泉谷直木社長に聞いた。

 ―2016年はどんな年に。
 「現在よりも良い年になるだろう。円高、高い法人税、労働規制などこれまで企業を覆っていた問題が徐々に改善し、夏の選挙や17年以降の増税を見据えた景気対策も見込める。残る問題は個人消費が依然、回復しない点だが、これも次第に上向くだろう」

 「個人消費でも低価格志向が強い面と、プチぜいたくを味わいたい時は高い商品でも買う二つの面がある。一番いけないのはプラス面とマイナス面を足して2で割り、消費動向は変化なしとか、まだら模様だと分析するタイプ。プラスの面を積極評価し、それに向けてどんな商品を開発・提案していけるかが問われる。面白い、新しい商品だと思えば消費者は買ってくれる」

 ―看板商品のスーパードライビールの海外売り込みは。
 「スーパードライの現地での位置づけは、あくまでプレミアムビール。現地の安いビールと競争して規模を拡大しようとは思わない。他方で国内からの輸出と現地で新鮮なビールを作るのではおいしさに格段の差があり、現地生産は強化したい」

 ―アンハイザー・ブッシュ・インベブのSABミラー買収で、独占禁止法対応からアサヒに買収の機会が生まれるとの観測も強い。
 「当然、調査はしている。アサヒにとって買収はアジアで1位市場を築けるかとか、プレミアムビールはアサヒというようにブランド価値を高められるか、クラフトビールのように特殊市場を持っているかなどで決めることになろう。いつ動きだしても行動できるように、準備しておくことが大事だ」

 ―飲料では低採算品の整理と自動販売機の強化が課題です。
 「機能性飲料は変わらず伸びており、今後も強化する。低採算品は消費構造変化で売れる容器、容量が変わってきたのが背景だが足元で改善に向かいつつある。自販機は地方の人口減少を踏まえ、売れる地域にシフトするなど配置を見直す。自販機専用商品も強化したい。売れ筋分析で人工知能の活用も手だ」

【記者の目/来年の大型新商品に期待】
 ビール消費量は長らく前年比マイナスが続いてきたが15年は各社の注力やクラフトビールブームもあり久々のプラスが濃厚。「マイナス面でなく、プラス面を見るようにして自社に合う戦略を考えよ」はネアカ経営者の泉谷社長らしい。16年は大型新商品も出す予定で、期待が高まる。
(聞き手=嶋田歩)

「『キリンは本気だ』と思われるようになった」


 キリンホールディングス(HD)は21日に2015年12月期の連結業績予想を560億円の当期赤字に下方修正。16年からの新中期経営計画を踏まえ、不振が続く子会社ブラジルキリンの膿を出し切るのが狙いだ。国内市場の過当競争が続く中、看板ブランド「一番搾り」販売増に注力し、若者に人気のクラフトビールにも力を入れている。磯崎功典社長に今後の戦略を聞いた。

 ―昨年は東京・代官山と横浜のミニブルワリー店舗で、クラフトビールが好調でした。
 「クラフトビール参入を表明した14年当時『キリンは一人負けだから販売減を補うためクラフトをやるのだろう』との見方が大勢だった。店舗を出したりヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)に資本参加したりしてようやく『キリンは本気だ』と思われるようになった。若い人たちは大手ビールの”ピルスナータイプで没個性的な味“に飽きている。個性的な味を提供すればクラフトは今後も伸びる。16年は構成比3%はいくだろう」

 ―看板ブランド「一番搾り」は15年に、大幅増加を果たしたが、新年はその数字からのスタートになる。
 「素材を強調したオーガニック麦芽一番搾りや全国47都道府県の一番搾りのように、新しい切り口の限定商品を次々出していく。限定商品の売り上げは必ずしも追わない。重要なのは個性的な味の商品を次々と出し、消費者に『キリンは一番搾りでこんな商品も作っているのか』と認知してもらい、本体の購入につなげること。一番搾り製法のていねいなモノづくりをアピールしていく」

 ―クラフトビールにせよ限定商品にせよ、必然的に品種の増加を招く。多品種生産への対応が、決め手になる。
 「まさにその通りで多品種生産が得意な滋賀工場は現在フル稼働に近い状態だ。今後は滋賀工場のノウハウを他の工場へ横展開する。タンク増設や兼用設備以外でも、コストを上げない多品種生産のノウハウはいろいろある。多品種化の流れは不可避」

 「ビール商品も缶チューハイも客が好みの商品を選び、同じブランドでも一物一価ではなくなる。価格戦略とともに、利益をどう出すかが重要だ。クラフトビールも今後は生産コストをもう少し下げていく必要がある」

 ―海外戦略は。
 「米国が利上げし、新興国経済の低迷はさらに続くだろう。ビール消費国の中国もぜいたく禁止令の影響で各社苦戦している。当面は海外より、国内の基盤固めに力を注ぐ。他方で日本食ブームにより、一番搾りの海外生産と輸出は伸ばせる」

【記者の目/広告戦略の変革も必要】
 「ビールの苦みが苦手」な若い人はかなり多い。若者や女性の生活スタイルに合わせ「今後は広告戦略も変えることが重要だ」と説く。有名タレントによる大規模テレビCMから、SNSやブログを使った口コミ情報発信などで、ヤッホーとの人材交流効果が生かせると語る。この活用も注目だ。
(聞き手=嶋田歩)
日刊工業新聞2015年12月28日/29日生活面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
泉谷さんは昔からよく存じ上げている。磯崎さんも何回かお会いしたことがあると思う。キリンは今年社長交代し、少し雰囲気は変わってきたか。ブラジル事業など負の遺産整理で15年12月期は初の最終赤字を計上するが、覚悟と期待したい。 アサヒは最終利益は過去最高を更新、相変わらず中規模のM&Aに積極的。その成否はポスト泉谷時代にしっかり見えてくるだろう。

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