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税収頼みの財政健全化の危うさ。16年度政府予算案

最大96兆7218億円。「一億総活躍社会」に重点
 政府は24日、一般会計総額が過去最大となる96兆7218億円の2016年度予算案を閣議決定した。15年度補正予算案(一般会計3兆3213億円)と一体の“100兆円予算”の編成により、安倍晋三政権が掲げる「一億総活躍社会」実現に向けた歳出項目が並んだ。来夏の参院選を見据え、家計や中小企業、農業など広範囲に目配りしたのが特徴だ。堅調な企業業績を背景に大幅な税収増を見込み、懸案の財政健全化も後押しされる。

 政府は“100兆円予算”の編成で日本経済の新たな成長軌道を模索しつつ、景気回復を中小や地方が実感できる環境整備を進める。補正、当初予算ともに16年1月4日召集の通常国会に提出、早期成立を目指す。

 16年度当初予算は15年度補正予算と同様、一億総活躍社会実現に向けた緊急対策に重点配分し、2兆4000億円を予算措置した。「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」に直結する施策に計1兆7100億円を配分。幼児教育無償化や企業主導型保育施設の整備、介護職員の待遇改善などに予算計上。年金受給者に臨時給付金を支給する15年度補正と合わせ、子育て世代や高齢者に目配りした。

 また「強い経済」実現に向け、16年度当初でIoT(モノのインターネット)を活用したビジネスモデル実証事業、中小企業によるロボット導入実証事業などに新規予算を計上。「地方創生」では地方の取り組みを支援する新型交付金1000億円を創設した。訪日観光客の一層の増加に向けて観光庁予算も200億円と15年度当初比で倍増させた。

 16年度当初の環太平洋連携協定(TPP)対策は約1500億円ながら、15年度補正で農家支援を軸に3403億円を計上。政府開発援助(ODA)も15年度当初比1・8%増の5519億円と17年ぶりに増額し、16年5月の伊勢志摩サミットの議長国として“地球儀外交”を推進する。

 16年度当初予算は一般歳出が57兆8286億円と15年度当初比4731億円の増加にとどめ、財政健全化計画の「目安」とした増加額5000億円以下を実現した。診療報酬引き下げで社会保障関係費を15年度当初比4412億円増の31兆9738億円と「目安」の増加額に抑制した。

 歳入では、税収が57兆6040億円と15年度当初比3兆円増え、バブル期の91年度以来25年ぶりの高水準となる見通し。結果、新規国債発行額は34兆432、億円と15年度当初比2兆4310億円減り、公債依存度は35・6%と7年ぶりの低水準となる。15年度補正も税収上振れで新規国債を発行せずに済み、税収増を追い風に財政健全化と“100兆円予算”編成を両立できた。

プライマリー・バランス黒字化の道筋つかず


 政府が24日に閣議決定した2016年度一般会計予算案は、税収頼みの財政健全化の危うさを改めて鮮明にした。新規国債発行額は7年ぶりの低水準となる見通しだが、これは大幅な税収増によるもので、歳出抑制が進んだわけではない。一般歳出の増加額を過去3年の平均増加額に抑える”低いハードル“をクリアしたに過ぎず、20年度のプライマリー・バランス(基礎的財政収支、PB)黒字化目標を達成できる道筋は依然ついていない。

 国・地方を合わせた長期債務残高は16年度末に1062兆円と過去最大を更新する見通し。増加ペースこそ鈍るが、主要国中で最悪の財政事情に変わりなく、16年度は歳出の約36%を借金で賄う。

 16年度は実質成長率1・7%を見通し、税収が15年度当初より3兆円増える見込み。これを追い風に一般会計のPB赤字額は10兆8000億円と、09年度(13兆1000億円の赤字)の水準以下まで改善すると見通す。

 だが足元では米国の金融政策の「正常化」により中国・新興国経済の一層の減速が懸念され、17年度には消費税率10%への引き上げを控える。内閣府の試算では、仮に毎年度2%以上の実質成長率を維持し続けても20年度にPBは黒字化しない。

 経済成長による税収増に依存した財政健全化には限界があり、国際公約でもあるPB黒字化達成には痛みを伴う歳出削減を避けて通れないのが実情だ。

 15年度補正予算案では年金受給者に3万円を支給する臨時給付金を計上し、自民党内からも、来夏の参院選を見据えた”バラマキ“との批判があった。16年度当初予算でも診療報酬の薬価は下げたが、診察料は上がるなど踏み込み不足。16年度当初で15年度当初比横ばいに抑えた公共事業費にしても、15年度補正予算で約6000億円を計上していた。

 財政健全化計画の初年度である16年度は、政権の経済政策「アベノミクス」と円安の”果実“である税収増で計画はクリアできる見通しだ。だが楽観視できる状況になく、政権の財政健全化への本気度がこれまで以上に問われる。
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日刊工業新聞2015年12月25日1/2面記事から抜粋
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
一般会計総額が過去最大の96兆7218億円となる来年度予算案。来夏の参院選を控え「1億総活躍社会」の名の下に家計や農業など「票」に直結しそうなあらゆる分野に目配りしたのが特徴です。これもひとえに好調な企業業績を背に税収増が見込まれるためです。

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