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「利益5倍」…コンテナ船好調で投資余力、海運は脱炭素へ好機を生かせるか

「利益5倍」…コンテナ船好調で投資余力、海運は脱炭素へ好機を生かせるか

日本郵船のLNG燃料自動車専用船「SAKURA LEADER」

日本郵船商船三井川崎汽船の海運大手3社がカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて技術開発を加速している。現行燃料の重油を液化天然ガス(LNG)に置き換えながら、次世代燃料の本命とされる水素やアンモニア、二酸化炭素(CO2)を転換利用する「カーボンリサイクルメタン」の研究開発などに取り組む。足元ではコロナ禍に伴う巣ごもり需要などでコンテナ船事業が好調を維持。この間に、成長戦略をどれだけ前に進められるかがカギを握る。 (浅海宏規)

50年排出半減、今世紀中に「ゼロ」

国際エネルギー機関(IEA)によると、2018年の国際海運からのCO2排出量は年間約7億トン。世界の総排出量の約2・1%を占め、ドイツ1国分に匹敵する。海運は関係国が多岐にわたるなどの理由で、排出量は「国際海運」としてひとくくりに計上される。排出量の削減に向けては、国際海事機関(IMO)で決定した対策が中心となる。

IMOは18年、30年までにCO2排出量40%以上削減(08年比、輸送量当たり)、50年までに温室効果ガス(GHG)排出量50%以上削減(08年比)を打ち出し、21世紀中のなるべく早い時期に排出ゼロという目標を設定した。

海運各社が目標を達成するには、現行の主燃料である重油をLNGなどへ置き換えつつ、脱炭素を実現する代替燃料の導入に向けた技術開発が不可欠。各社は造船会社やエネルギー会社などとの連携を強め、技術を蓄積していく。

船の寿命は一般的に20年程度とされる。各社は保有船の船齢を考慮しながら、環境対応船の導入を計画的に進める。

「海事産業強化法」成立 環境対応船に国の補助

政府も環境配慮に優れ、生産性向上が期待できる船舶の発注・建造の支援に動く。21年には、国内の造船・海運業への財政支援を柱とする海事産業強化法が成立。造船会社が事業の再編や環境対応技術の開発などを盛り込んだ事業計画書を作り、国土交通大臣が認定すれば補助金や低利融資、税制優遇といった支援が受けられる。

さらに、計画認定の造船会社が製造した船舶を購入した海運企業に対しても財政支援することで「海運業の新造船発注を喚起する」(国交省関係者)考えだ。

コロナ禍で事業環境が激変したのがコンテナ船事業だ。米国などでは新型コロナウイルスの影響で巣ごもり需要が発生。荷動き量が増え、輸送で使うコンテナが不足したことで、現在も高い運賃水準が続く。

日本郵船、商船三井、川崎汽船の定期コンテナ船事業は、共同出資会社であるオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ON)が手がける。好調なコンテナ船事業が利益を押し上げ、海運3社の22年3月期の当期利益を合計した金額は1兆5600億円となる見通し。前期比で5倍強の水準だ。

「今は天祐(てんゆう)とも言えるこの機会を生かし、ESG(環境・社会・企業統治)をはじめ、成長戦略を進めていく」―。日本郵船の長沢仁志社長はこう強調する。同社は14日、LNGを主燃料とする新造大型バラ積み船(ケープサイズバルカー)の建造を発表した。日本シップヤード(東京都千代田区)に2隻、名村造船所に1隻、中国の上海外高橋造船に1隻の計4隻を発注し、24年度から25年度にかけて順次完成する予定だ。発注済みを含め、同社によるLNG燃料バラ積み船は合計6隻となる。

日本郵船は21年6月に、LNGを燃料とする自動車専用船も発注している。新来島どっく(愛媛県今治市)、日本シップヤードが合計12隻の建造を担う。20年10月に完成したLNG燃料自動車専用船「SAKURA LEADER」から順に、新造自動車専用船のLNG燃料船への切り替えを進めている。新たな12隻を加えて28年度にはLNG燃料自動車専用船が20隻となり、合計で2000億円弱の投資となる。

その先を見据え、日本シップヤードやジャパンエンジンコーポレーションなど5社・団体と連携し、アンモニア燃料船の開発にも乗り出した。

30年までにLNG燃料船を約90隻、35年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ・エミッション外航船」を約110隻整備する計画を掲げるのが商船三井だ。橋本剛社長は「足元ではコンテナ船事業などが好調なこともあり、投資余力ができつつある。LNG燃料船の導入を前倒しすることも選択肢の一つになるだろう」と説明する。21―23年度の3年間で、低・脱炭素分野に約2000億円を投資する計画に弾みがつきそうだ。

川崎汽船は30年までの中期マイルストーンとして、IMO目標を上回るCO2排出量の50%削減を独自目標に据える。LNG燃料船の導入や、風力を利用して船の推進を補助するシステム「Seawing(シーウィング)」など、省エネ技術の開発に取り組む。

風力を船舶運航に活用する自動カイト(たこ)システム「Seawing」(イメージ)

造船業は日本、中国、韓国の3カ国で世界シェアのおよそ9割を占めるとされる。国交省によると、世界の建造量シェア(15―19年)で中国は35%、韓国が33%であるのに対し、日本は21%にとどまる。ゼロエミッション船の開発加速に伴い、同分野で高い技術力を持つ日本造船業の競争力強化にも期待がかかる。

私はこう見る

◆電動化技術の開発に期待 大和総研金融調査部SDGsコンサルティング室研究員・田中大介氏 
 政府が50年にカーボンニュートラルを目指す方針を打ち出す中で、GHG排出量の削減目標を掲げる企業が増えており、野心的な目標の達成を試みる企業も出てきている。ただ「排出ゼロ」の達成が難しい業種もあり、企業の状況に応じたGHGの削減努力がポイントになる。

大和総研金融調査部SDGsコンサルティング室研究員・田中大介氏

技術開発に目を向けると、日本は水素関連では欧州と並んで世界トップクラスにある。今後の開発次第では海外への技術輸出も期待できるだろう。

海運業界ではIMOの呼びかけに対し、LNGを燃料に使う船舶など燃料転換を進めている。次代を担う技術としては、燃料電池搭載船など電動化技術の開発にも注目したい。(談)

日刊工業新2022年1月24日

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