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大規模な金融緩和を維持する日銀、黒田総裁の発言に見る健全とは言えない姿

大規模な金融緩和を維持する日銀、黒田総裁の発言に見る健全とは言えない姿

記者会見する日銀の黒田総裁(代表撮影)

日銀は18日に開いた金融政策決定会合で、2022年度の消費者物価上昇率見通しを従来の前年度比0・9%から1・1%に上方修正した。企業が資源高をはじめとしたコスト上昇を価格転嫁する動きを反映した。日銀は賃金と物価が持続的に高まる「好循環の物価上昇」で2%を目標とする。23年度も1・1%にとどまる見通しで、現在の大規模な金融緩和を維持して物価目標を達成する。

日銀は「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、物価のリスクバランスが「おおむね上下にバランスしている」として、14年10月から表記してきた「下振れリスクの方が大きい」との表現を見直した。

足元は資源価格が高騰中だ。21年の企業物価指数は上昇幅が比較可能な期間で過去最高を記録した。今後の物価はコスト上昇の価格転嫁とともに、携帯電話通信料の引き下げ影響がなくなり、上昇幅が拡大すると見通す。

ただ、資源高は一時的との見立てなどから、展望リポートでは「1%程度の上昇率が続く」と、23年度も2%は未達になる分析だ。黒田東彦総裁は18日の記者会見で、大規模緩和を継続する考えを示し、「利上げの検討や議論は全くしていない」と話した。

一方、22年度の実質国内総生産(GDP)成長率は、従来のプラス2・9%からプラス3・8%に引き上げた。政府の経済対策や、企業が供給制約で遅れた計画を取り戻す挽回生産などが押し上げる。

日刊工業新聞2022年1月19日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
今会合は概ね市場予想通りの結果となったが、前打ち報道を受けて一部に浮上していた利上げに関する思惑は明確に否定された。ただ、当該記事をよく読むと、オーバーシュート型コミットメントの立て付けに関する説明や将来の利上げに備えた頭の体操など、当たり前のことを書いているに過ぎず、これでよくマーケットは反応したなと驚く。それだけ神経質になっていたということだろう。日銀担当記者の役割の一つに金融政策の「次の一手」を探ることがある。そのため年間8回ある金融政策決定会合の直前には会合の見通し記事が相次ぐ。これがマーケットに織り込まれ、会合の当日を迎える。つまり、金融政策をめぐる報道はマーケットメカニズムに組み込まれていると言っていい。今回の記事も直前の取材を踏まえたものと推測されるが、内容はあくまで中長距離砲だ。それが会合直前に出てきたから、マーケットが過剰に反応した。黒田総裁は利上げ議論を否定したが、仮に頭の体操すらしていないのであれば政策当局として失格だ。現在は利上げをするような状況ではない。しかし、将来の議論すら封印する現在の姿は、とても健全とは言えない。

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