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低下の一途…ニッポンの労働生産性に上昇への道筋はあるか、専門家たちの見方

低下の一途…ニッポンの労働生産性に上昇への道筋はあるか、専門家たちの見方

日本が労働生産性を高めるには女性やシニアの活躍の場をさらに広げることが重要だ(イメージ)

日本の労働生産性が低下の一途をたどっている。日本生産性本部が2021年12月にまとめた統計では、20年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中23位(19年は21位)と、1970年以降で最低順位に落ち込んだ。人口減少が進む日本にとって、生産性向上は喫緊の課題だ。労働生産性低下の背景をひもとくとともに、上昇への道筋を探った。(幕井梅芳)

労働時間の長さ 「働き方改革」で時間短縮

日本生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較2021」の内容は衝撃的なものだった。20年の日本の時間当たり労働生産性は49・5ドル(購買力平価=モノやサービスの価格を基準にした為替レート)で、米国のおよそ6割にとどまった。先進7カ国(G7)でも最下位が続き、チェコやエストニアといった東欧・バルト諸国と同水準だ。

ただ、この国際比較については「日本製品の品質の高さが反映されていない」(山田久日本総合研究所副理事長)とし、国際統計の限界を指摘する声もある。特にサービスの国際比較は難しく、日米に居住経験のあるビジネスマンに両国のサービスについて聞くと、特に宅配やクリーニングなどは米国よりサービス品質が高いという。ところが統計になると、こうしたサービスの品質比較が難しいため、加味されないのが実情だ。

もっとも、今後も人口減少傾向が続く日本にとって、労働生産性の向上は喫緊の課題だ。なぜ日本の数値は低いのか。まず「年間労働時間の長さ」を要因とする見方が多い。国内に製造業を多く抱えるなど、日本と似たような産業構造を有するドイツは、時間当たりの労働生産性が国際比較で12位。主要先進国の中では米国、フランスに次ぐ。平均年間労働時間は1332時間と欧州内でも少ない。

一方で、日本の平均年間労働時間は1598時間と、ドイツを266時間上回る。時間当たりの労働生産性の算出は、分母に労働時間が入り、働く時間が長ければ長いほど、数値が低くなる。

無形資産への投資 高等スキル人材を有効活用

人材への投資不足を指摘する専門家も多い。日本の高等教育卒業者は米国やドイツほど賃金などのプレミアムを得ておらず、生産性の高い高等教育卒業者を増やすインセンティブも少ない。企業も高等なスキルを持つ人材を有効活用できていない。高度な能力のある女性労働力を能力に応じた賃金水準で活用することも、生産性を高める上で不可欠だ。これらの課題を克服するには、短時間で業務をこなす意識改革が欠かせない。近年「働き方改革」で労働時間の短縮が叫ばれているのは、こうした背景がある

IT投資も重要だ。主要先進国の中で最も高い労働生産性を誇る米国は、IT関連投資に積極的とされる。加えて、技術を使いこなすための情報環境や人材育成など、無形資産への投資も意欲的だ。こうした米国政府のITの環境整備政策が功を奏していることは参考になるだろう。

日本政府もようやく能力開発やIT分野の人材育成に力を注ぐ方向性を打ち出した。厚生労働省の22年度予算案でも、デジタル分野の人材育成に向け、新たに人材開発支援助成金の訓練プログラムの一部について、民間からの提案を募集することにした。

非正規雇用労働者やキャリアアップの支援、成長分野への労働移動の円滑化などを含め「人への投資」に総額1019億円を計上。3年で総額4000億円をつぎ込む方針だ。

【私はこう見る】

◆日本総合研究所・副理事長・山田久氏

日本の労働生産性が低いのは、既存の産業に人材や資金など経営資源が注ぎ込まれ、新しい分野に回っていないからだ。既存産業に企業が集中して、価格競争に巻き込まれ、モノの価格が上がらないことも一因だ。

事業の選択と集中など効率化を進めながら新分野にシフトし、価格競争を避けることが有効だ。中小企業も同分野で連携しながら新事業を創出することなどが求められる。品質の高さなど日本の強みも生かすべきだ。この良さがなくなると、労働生産性はさらに低下してしまうだろう。政府は成長戦略に掲げるデジタル化と脱炭素化について、産業界と幅広い視点を共有してどんな経済社会を描くかというビジョンを構築すべきだ。こうした新分野へ人材が移りやすい環境を整備していくことが重要になる。

取引価格の適正化も課題だ。取引では大企業が優越的地位を乱用する恐れがある。これを防ぐため公正取引委員会が監視を強める必要がある。一方で、賃上げも欠かせない。第三者委員会をつくって、データ・エビデンス(科学的証拠)に基づく賃上げの適正水準を示し、労働サイドの賃上げ力をカバーすることが望ましい。取引価格の適正化と賃上げはセットで考えないといけない。(談)

◆第一生命経済研究所・首席エコノミスト・熊野英生氏

日本の労働生産性が伸びないのは、労働力の非正規化が大きい。新たに労働力化される就業者には、雇用延長したシニアや再就職した女性が多くなっていて、これらの非正規形態も目立つ。

シニアや女性が能力開発をしてスキルを高めていけば、生産性が上がるはずだが、そういった体制になっていない。

労働生産性を高めるには、企業が売り上げや利益をどう伸ばしていくかにかかっている。それには新事業でグローバル化に乗りだして活路を見いだすしかない。中小・中堅企業は1990年代、中国やミャンマー、ベトナムなどに大企業に引っ張られる形で進出した。中小単体では難しくても、地域ごとに中小がグループで進出することも考えるべきだ。

重要なのは、10年、20年先の中長期を見据えて、海外展開していくことだ。その際、地銀など金融機関の後押しも必要になる。政府には、中小・中堅企業の海外進出の際に、公的金融機関などを通じて資金面から後押しすることが求められる。

足元では原材料の値上げが相次いでいる。大企業は輸出価格に上乗せし、利益を生みだしている。

一方、中小・中堅企業はこうした対応は難しい。下請け中小が発注側大企業に上昇分を価格転嫁できる体制の強化が欠かせない。(談)

日刊工業新聞2022年1月19日

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