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2輪・4輪は人気車種の生産終了相次ぐ、終止符打った事業・製品を振り返る

2輪・4輪は人気車種の生産終了相次ぐ、終止符打った事業・製品を振り返る

ホンダの高級ミニバン「オデッセイ」

産業界では今年も多くの節目があった。一時代を築いた製品が惜しまれつつも姿を消したほか、地域とともに歩んできた事業拠点がその歴史を終えた。時代の潮流に合わせてさまざまなモノや技術が誕生する一方、その変化に伴い終わりを告げるものもある。企業成長には新陳代謝が不可欠であり、それが製品やサービス、ひいては企業自体を高度化し、日本の産業界を活性化していく。

4輪/往年の人気車種、生産終了相次ぐ

ホンダはミニバン「オデッセイ」の国内生産を27日に終えた。生産拠点である狭山工場(埼玉県狭山市)の完成車ライン閉鎖に伴う判断で、他工場への生産移管も断念した。オデッセイは高級ミニバンの先駆けと言われる車種で、発売翌年の95年の販売台数は12万台超だった。ただ近年は苦戦しており、21年の販売台数は9717台にとどまった。狭山工場は数年内に部品生産を終了し閉鎖。57年の歴史に幕を下ろす。

三菱自の「パジェロ ファイナルエディション」

軽自動車スポーツカー「S660」の生産も22年3月に終了する。S660は2人乗りのオープンカーで、旋回性能に強みを持つ。高い人気を誇ったが今後、安全や騒音、環境規制への対応が難しくなり、生産終了を決めた。発表後に注文が殺到、11月に650台の追加販売を公表した。

世界規模での拡大戦略が行き詰まり業績低迷に苦しむ三菱自動車。構造改革の一環で同社を象徴する2車種の生産終了を決断した。1台目はスポーツ多目的車(SUV)の草分け的存在である「パジェロ」だ。子会社のパジェロ製造(岐阜県坂祝町)が7月に海外向けの生産を終了。1982年発売のロングセラーが惜しまれつつも完全引退した。パジェロ製造は8月に全ての生産活動を終えた。

2台目は業界初の量産型電気自動車(EV)「アイ・ミーブ」。09年6月に量産を開始したが、累計販売台数は2万台を超えるにとどまった。航続距離も約160キロメートルから伸ばせず、EVの競争激化に対応できなかった。

2輪/特別仕様で“有終の美”飾る

環境規制が厳しくなる中、空冷エンジン搭載の2輪車が引退を余儀なくされた。ヤマハ発動機は中型ロードスポーツ2輪車「SR400」、ホンダは大型ロードスポーツ2輪車「CB1100」の国内向け生産終了を決めた。CB1100は直列4気筒エンジン、SR400は単気筒エンジンを採用。ともに鼓動感のある走りや伝統的なデザインで人気を集めたが、新たな排ガス規制などへの対応が難しいとして、販売を終える。

ヤマハ発のSR400「ファイナルエディション」
ホンダの「CB1100 EX ファイナルエディション」

根強いファンがいることを背景に、両社は特別仕様のエンブレムなどを施した「ファイナルエディション」を数量限定で発売、有終の美を飾った。

鉄鋼/日鉄、呉地区の高炉廃止

燃えさかった火が落ちた―。日本製鉄は9月末、呉地区(広島県呉市)の高炉を廃止した。23年9月には呉地区自体を閉鎖。国内の人口減や海外現地生産化を受け、鋼材需要が先細りする中で構造改革を断行する。

呉地区は統合前の旧日新製鋼の象徴で約70年の歴史を持つ。屋台骨を失う地元への影響は大きい。関連会社の2000人を含め約3000人が職を失う。閉鎖までの“猶予期間”に、再就職先の確保や業容転換などを進める企業が少なくない。

日本製鉄の呉地区(旧日新製鋼・呉製鉄所)

日鉄は25年度までに全国に15基あった高炉を10基とし、生産能力と人員を約20%減らす。橋本英二社長は「成果を鋼材価格の是正につなげないと、従業員や地域の方々に申し訳が立たない」としている。

造船/拠点再編相次ぐ

造船業界では造船所の再編が相次いだ。三菱重工業は主力の長崎造船所香焼工場(長崎市)の新造船エリアを大島造船所(長崎県西海市)に譲渡する契約を結び、22年度をめどに完了する予定。“造船ニッポン”を象徴する拠点を手放すことで大型船の連続建造は難しくなるが、「フェリーなどの高密度な艤装船や燃料転換の船舶に活路を見いだす」(泉沢清次社長)としている。

また、三井E&Sホールディングスから艦艇・官公庁船事業を買収し、同社の玉野艦船工場(岡山県玉野市)を艦艇新会社の拠点として始動させた。三井E&Sは、国内新造船事業から実質的に手を引く格好となる。

三菱重工の長崎造船所香焼工場

ジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)は舞鶴事業所(京都府舞鶴市)での商船建造を終了した。海軍工廠を前身とし、日本海沿岸では随一の大型造船所だが、修繕の拠点として活用していく。

事業再編/抜本的な改革、“名門企業”続々

時代の流れに合わせ、抜本的な構造改革を決断する名門企業も相次いだ。東芝は23年度下期にグループ全体を事業別に3分割しそれぞれ上場させる。インフラサービスと電子デバイス、キオクシアホールディングス(HD、旧東芝メモリHD)株式などの管理会社の3社に再編する。東芝の綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)は「執行部が早い判断でグローバルに勝ち抜ける経営体制にする」とスピンオフの目的を説明。「解体でなく未来に向けた進化だ」と強調する。

脱炭素への対応と縮小する国内事業の持続可能性―。難題の両立に挑むのが、国内化学最大手の三菱ケミカルHDだ。同社は23年度をめどに石油化学・炭素事業を分離・独立する方針を公表した。ジョンマーク・ギルソン社長は「利益が出ている間に再編し、石化産業を持続可能な産業にしたい」と説く。

三菱ケミHDは石化再編に一石を投じた(三菱ケミカル茨城事業所)

事業譲渡で競争力を高める動きも目立った。三菱重工は8月、三菱重工工作機械(現日本電産マシンツール)を日本電産に譲渡した。三菱重工工機は国内6割のシェアを持ち、世界3強の一角を占める歯車機械のトップメーカー。日本電産の購買力や生産・販売網を活用し、製品、サービス力を強化する。

オンキヨーホームエンターテイメントは9月、祖業のアンプやスピーカーなどオーディオ機器の「ホームAV事業」をシャープと米音響機器メーカーのヴォックスに譲渡した。製造をシャープ、販売をヴォックスが担う。

企業のポートフォリオ改革は手段の一つにすぎない。経営陣には変革後の事業成長の道筋を明確に示せるかが問われる。

日刊工業新聞2021年12月29日

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