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「現時点で利益につながらない」…難題多い建機の電動化、勝ち筋はどこか

「現時点で利益につながらない」…難題多い建機の電動化、勝ち筋はどこか

日立建機の欧州子会社が開発した電動ショベルZE85。20年に25台を販売

建設機械業界では2022年も、電動化をはじめとする脱炭素対応が引き続き重要テーマになりそうだ。国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で世界の気温上昇を1・5度C以内に抑える目標が示され、二酸化炭素(CO2)削減は今や共通のルールだ。一方で建機の場合、電動化には自動車と違って高出力化など、多くの課題が横たわる。コマツなど大手各社はこれを念頭に、リチウムイオン電池以外にも、燃料電池(FC)や有線給電(トロリー)などさまざまな方法で対応の道を模索している。(編集委員・嶋田歩)

険しい道のり

「電動化は現時点で売り上げや利益に全くつながらない。あくまで将来に向けての研究開発だ」。コマツの小川啓之社長が話すように、足元で電動ショベルの普及率は微々たるものだ。

理由は多岐にわたる。建機は掘削や重量物を持ち上げる作業で、自動車とは比べものにならないパワーが要求される。電池の搭載量やサイズもおのずと大きくなる。電池の搭載に場所を取られ、操縦席が置けなかったり、視界を妨げたりすることになりかねない。

稼働時間の短さもネックだ。鉱山現場では24時間稼働もざらで、作業途中に充電が切れたでは済まされない。充電インフラ整備の問題もある。普及促進で政府が給電ステーションや水素インフラを整備しようにも、建機の作業現場は山奥のダム工事などが多く整備は難しそう。

最後にコストだ。現状の電池コストを踏まえると、電動ショベルの価格は従来機の数倍にはね上がる。量産効果で電池価格が下がれば良いが、建機市場は自動車に比べ規模が小さいため、単独市場での価格低減は現実的ではない。

そこで建機各社は自動車メーカーの電気自動車(EV)開発が加速することで電池価格が下がり、導入障害も小さくなるというシナリオを描く。この点で米テスラや日産自動車ホンダなどに続き、トヨタ自動車がEVに本腰を入れ始めたことは大きな意味を持つ。トヨタがEV戦略を拡大したことで、電池メーカーや関連メーカーの開発や生産が活発化し、波及効果で供給スタンドや稼働時間のネックも改善が期待できるからだ。

ホンダの電池パックを搭載した電動ショベル試作車「PC01」

コマツは08年に世界初のハイブリッドショベルを発売、カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応の口火を切った。20年4月には電動ミニショベル「PC30E―5」を国内のレンタル向けに投入。顧客の声を取り入れて、22年度に本格的に量産する計画だ。

欧州が主戦場

「顧客の環境意識が高い」(小川社長)ことから、まずは欧州が主戦場となる。ホンダと共同で、交換式バッテリー「モバイルパワーパック」を活用した電動マイクロショベルの開発も進めている。充電が切れたら満充電のパックと交換することで、充電時間や供給インフラの制約をなくす。「配管工事や造園、農畜産関係の需要を狙っている」(渕田誠一常務執行役員開発本部長)という。

コマツの電動ミニショベルのコンセプトマシン。車体中央の運転席が無く、遠隔操縦で動かすことを想定

20トンなど中型油圧ショベルの電動化では、バスなど大型車両に強い米プロテラと協業を開始。顧客の作業現場で実証試験中で、23―24年にも量産化する。大手鉱山会社と共同で超大型ダンプトラックなども開発している。

日立建機も電動ショベルの開発に力を入れる。環境先進国のドイツで8トンの電動ショベルを20年に発売、販売台数は同年の25台から21年は50台に倍増した。国内では5トンのミニ電動ショベルを客先で試験しており、22年度に発売する方針。小旋回モデルのため、奥行きの小さい都会地区工事でも使いやすいのが特徴だ。

平野耕太郎社長は「10トン以下のクラスはこの2機種を軸に今後も商品を増やす。米国での販売も念頭にある」と説明。「現状では価格が通常ショベルの2―3倍する。これを解決するには普及台数を増やすことが肝心だ」と続ける。納入先からはCO2削減効果とともに、静音性を評価する声が多いという。住宅街や夜間の工事、病院や学校付近の工事に商機を見いだす。

コマツと日立建機は10トン以下のクラスやミニショベルでは、電動化が徐々に進むとみている。静音性や排ガスを出さない長所は、建物内や地下など閉鎖空間の工事に有効で、操縦者の疲労も少ない。

鉱山機械の対応、トロリー式が主流

他方で鉱山機械やダンプトラックは、トロリー式が主流になりそうだ。パワーと長時間稼働の問題を解決するには電池では力不足なうえ、鉱山現場は運搬ルートがほぼ決まっている。経路に電線を張り、自律走行をさせやすいメリットがある。日立建機は同分野で重電大手のABBと共同でダンプの開発を進める。電力を架線から取り込むことで電池搭載量を抑えれば、その分積載量を増やせる。

給電とパワーが必要な鉱山機械現場ではトロリー式が主力になると見られる(日立建機のEH4500ダンプトラック)

ボリュームゾーンの20トンや30トンショベルはどうするか、各社は頭を悩ませる。リチウムイオン電池とトロリーのほかに、FCや水素エンジン、バイオ燃料などがあるが、いずれも高コストに加え、給電所などインフラ整備の問題があり、環境先進国の欧州などでも答えはまだ出ていない。「技術の確立には5、6年、価格問題やインフラを含めた解決はそれより長くかかると見ている。しかし、それを待ってはいられない。すでに研究を始めている」と日立建機の平野社長は話す。

コマツは開発本部万田地区の研究施設(神奈川県平塚市)にFCを設置し、車載を想定した実証の準備を始めた。まずは出力8キロワットの電池2基で制御やシミュレーション技術を確立、数年後に高出力のメガワット級ベンチ試験に移行する計画。FCは専業メーカーが開発しているが、渕田常務執行役員は「単に電動化技術だけでは鉱山機械の電動化はできない。ベンチデータと稼働データの双方を我々自身で持つことが大切だ」と強調する。

コベルコ建機住友建機も、電動化に関心を寄せる。コベルコ建機は米国でエンジン調達問題を抱えており、解決が済み次第、人材を電池や水素などカーボンニュートラル対応に振り向ける考えだ。

建機メーカーの脱炭素化をめぐっては、世界規模での提携や囲い込みが加速している。コマツは8月、BHPグループや英豪リオ・ティント、チリのコデルコ、スウェーデンのボリデンの世界大手4社と、鉱山操業に伴う温室効果ガス(GHG)削減を目指す連携体「コマツGHGアライアンス」発足で合意。米キャタピラーもBHPグループとゼロエミッション(排出ゼロ)のバッテリー駆動の大型トラック開発で提携した。限られた時間軸の中で、各社の開発競争が続く。


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