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税制改正大綱に明記、改正電子帳簿保存法に講じられる「宥恕措置」とは?

連載/改正・電子帳簿保存法の全容と取り組むべきこと 番外編

2022年1月に施行する改正電子帳簿保存法。施行まで1ヵ月をきった今月10日に「令和4年度税制改正大綱」が発表され、改正電帳法における電子保存の義務化について2年の宥恕(ゆうじょ)措置が盛り込まれた。この「宥恕措置」とは一体何か、ポイントを解説する。

2年の「宥恕措置」が講じられた今回の税制改正大綱

まず、令和4年度税制改正大綱の原文を見て、ポイントをお伝えしたい。

タイトル:電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置の整備

詳細:令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存することができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が、質問検査権に基づく電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講ずる。

(注1)上記の改正は、令和4年1月1日以後に保存が行われる国税関係書類又は電子取引の取引情報に係る電磁的記録について適用する。
(注2)上記の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の出力書面等を保存している場合における当該電磁的記録の保存に関する上記の措置の適用については、当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続きを要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。

上記の原文には「“宥恕”措置」と書かれた。「宥恕」は、寛大な心で許すことという意味だ。本来はやらなければならないが、「許容」されているというのが正しい捉え方になる。

改正電帳法は22年1月に施行し、これまでの解説の通り、受け取る請求書の形式が「電子」の場合、電子で保存しなければいけない事実自体は変わらない。ただ、宥恕措置がなされる。

宥恕措置のポイントは3つだ。

●期間は、22年1月1日から23年12月31日の2年間
 ●やむを得ない事情かつ出力書面の提示又は提出ができる場合は、保存要件に関わらず保存可能
 ●所轄税務署長へ事前手続は不要

つまり、一定の条件はあるものの、電子で受領した国税関係書類を電子で保存できないとしても「許容」される。

一定の条件となる「やむを得ない事情」はどのような事情なのか。これについては、現時点では公表されておらず、詳細は分からない。しかし、この「やむを得ない事情」のハードルが高すぎると、宥恕措置のメリットがなくなるため、多くの企業が該当する条件になると考えられる。ここについては今後、詳細な情報は公表されるだろう。

また、許容された保存をする場合、事前申請は不要だが、これは各企業の実情に配慮した措置と言える。

税制改正大綱発表前後の変化としては、下記のようになる。

電子で受け取った請求書の保存に関しては、一定の条件に限り、電子で保存できないことが2年間許容された。一方で、紙で受け取った請求書に関しては、発表前から変化はない。紙での電子保存は引き続き緩和されている。

企業はインボイス制度も見据えた対応を

この許容期間は、23年12月31日で終了する。同じ23年にはインボイス制度の導入が控えている。インボイス制度は、消費税の仕入税額控除の課題を解決し、控除金額を正しく計算するために導入される制度だ。企業は適格請求書への対応が必要になる。

24年までに、紙の請求書に紐づくアナログな業務をデジタルな業務へと進化させる法改正は整備されていく。企業は、請求書業務のDXを推進しやすい状況になっている。

この法改正への対応で、考慮すべきポイントが2つある。

今後控える法改正にその都度対応するのは、コストがかかりすぎるため、企業は目先の改正電帳法だけでなく、インボイス制度も見据えた業務フローの構築が必要と考える。

また、許容期間が終了した24年からは、電子で受け取った請求書を紙保存することが出来なくなる。紙と電子の請求書は、今後も混在していくことが想定されるため、企業は電子と紙の二重管理を行うか、電子での一元管理を行うかの選択を求められる。二重管理は、業務の工数が増え、ミスが生じる可能性も高まるため、今後は請求書を電子で一元管理する企業が増えていくだろう。

改正電帳法やインボイス制度は、厄介な法律だと思われがちだが、これらの対応を機会にデジタル化を進めていくことは、企業にとっても業務効率化やテレワークの推進などメリットも大きい。これら法改正の目的を正しく捉え、早期から対応を進めていくことが重要なのではないだろうか。

<プロフィール>
柴野亮:公認会計士|Sansan株式会社 Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー。監査法人で勤務後、Sansan株式会社に財務経理として入社。経理実務、資金調達等を担当時、紙の請求書の非効率性に課題をもちBill Oneを起案。現場視点から改正電帳法の啓発活動に力を入れている。
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