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「次世代接合技術」ダイヘンと実用化へ、阪大はパラダイムシフト起こせるか

「次世代接合技術」ダイヘンと実用化へ、阪大はパラダイムシフト起こせるか

自作した接合装置で実験(左は大阪大学接合科学研究所の藤井英俊教授)

溶接・接合技術で国際的にトップ水準の研究をする大阪大学接合科学研究所(大阪府茨木市)。接合研が開発した「固相抵抗スポット接合」が次世代接合技術として注目を集める。溶接機大手のダイヘンと実用化を目指す開発が進み、電気自動車(EV)シフトで車の軽量化を担う鉄鋼材料の接合などで応用が期待される。接合研所長の田中学阪大教授は「実用化されれば、溶接・接合のパラダイムシフトが起こる」と強調する。(編集委員・広瀬友彦)

固相抵抗スポット接合は、高い圧力をかけながら電流を流し、金属材料の結晶構造を変質させない723度C以下の低い温度域で、固体接合できるのが特徴だ。接合研の副所長を務める藤井英俊阪大教授らの研究グループが2020年に技術開発した。摩擦接合技術を研究する流れの中で発見した、金属の接合時に「押す圧力を上げるほど低い温度で接合できる」(藤井教授)アイデアを生かした。

自作の接合装置は、接合部を電動サーボプレスで動く加圧軸と、材料を上下で挟み、通電する円筒状の銅電極で構成。電極の真ん中に超硬合金の加圧軸を入れた二重電極構造で、圧力印加と通電を両立した。2枚の金属薄板を重ね、装置で圧力をかけつつ電流を流すことにより、瞬時に金属同士を低い温度域で接合できる。

炭素含有量が0・45%の中炭素鋼の薄板同士を250メガパスカル(メガは100万)の圧力をかけながら通電し、700度Cで界面部が変形し表面の酸化物がバリで排出され、接合する仕組みだ。例えるなら、餅を熱すると表面がはがれ、新しい表面同士がくっつきやすくなるイメージだという。圧力により接合温度を任意に制御するため、低温域での固体接合を実現する。

炭素の含有量の多い強度のある鉄や柔らかいアルミニウムなどの難接合材、異種金属同士の接合にも対応できるという。EVシフトで自動車の軽量化が求められる中、鉄を薄くできる超高張力鋼板(超ハイテン)を同接合で利用可能。接合機構以外は従来の抵抗スポット溶接機と同等の設備が使えるのも利点だ。

接合研では産学連携にも力を入れ、大阪府茨木市の敷地内に企業との協働研究所を構える。日本製鉄とJFEスチール、ダイヘンの3社がそれぞれ協働研究所を設置した。中でもダイヘンは協働研究所を通じて、今回の固相抵抗スポット接合技術を実現する専用の接合装置を開発する方針だ。

炭素を多く含む鉄の接合が可能になれば鉄の製造時の脱炭工程が不要となり、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に低減する効果も期待できる。同接合は分離しやすい特徴もあり、リサイクルやリユースにも威力を発揮する。

固相抵抗スポット接合の可能性について、藤井教授は「鉄鋼の作り方や自動車のモノづくりも変わる可能性がある」と強調。田中所長も「早期に社会実装できる技術。企業連携を加速したい」と意気込む。22年に創立50周年を迎える阪大接合研は、新たな技術の実用化で存在感を高める。

日刊工業新聞社2021年12月20日

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