コロナ・デルタ株を不活化するバイオ新素材の正体、家電・日用品に提案へ
NECプラットフォームズ(東京都千代田区、福田公彦社長)は、家電や通信機器などに使うバイオ新素材「NeCycle」が新型コロナウイルス・デルタ株に対して、高い不活化効果を示すことを確認した。地球環境に優しい非可食のバイオマスを主原料とする。山口大学・早坂大輔教授が行った抗ウイルス試験で、24時間培養後に99・4%のウイルス減少を確認した。
NeCycleはプラスチックと同等の耐久性と、自然環境での長期的な生分解性を併せ持つバイオ新素材。家電や通信機器のほか、日用品、車載や漁業向けなど幅広い用途を見込んでいる。
すでに抗菌性は大腸菌や黄色ブドウ球菌で実証済み。今回は抗ウイルス性に焦点を当て、新型コロナウイルス・デルタ株について検証した。
具体的には「SARS―CoV―2デルタ株」のウイルス液に、無菌フィルターを通した「ミリQ水」を加え、10倍の溶液(10倍希釈)を作成し、400マイクロリットル(マイクロは100万分の1)を試験片上に乗せてフィルムでカバー。24度Cで24時間静止した上でウイルスの濃度を測定した。
「24時間培養後の感染価(感染性を持つウイルス粒子の数)の常用対数値」を調べた結果、一般のポリエチレン材を使用した場合が「3・85」に対して、NeCycleは「1・65」となり、99・4%のウイルス減少を確認した。
NeCycleは木材などの非可食植物資源から天然高分子のセルロースを取り出し、酢酸などの安全な成分によって化学的な性質を変え、独自の着色剤などを添加することで製造する。セルロース含有率が約50%で、残り50%も環境調和性の高い安全な成分を使用。二酸化炭素(CO2)排出量を類似物性の石油系素材に比べて40%削減でき、海洋プラスチックゴミ問題にも貢献する。
2020年度から事業展開を本格化。ここに来て国連の持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラルへの関心を背景に、引き合いが増加。今回の実験を踏まえ、抗ウイルス性を兼ね備えた素材としての特性を強くアピールする。
NeCycleは日本を代表する漆芸家・下出祐太郎氏との共同開発により、付加価値として、高級感のある漆ブラックと同等の光学特性を塗装なしで実現している。
スマートフォンケースへの採用で20年に実施したクラウドファンディングでは「わずか2日間で目標の100万円を超える応募があった」(NECプラットフォームズ)という。
NeCycleはNECの研究所が開発し、製造はNECプラットフォームズの掛川工場(静岡県掛川市)が担当。通常の金型加工を用いて、コストを抑えて、量産できる製造プロセスを確立している。脱炭素社会の実現をはじめSDGsの社会的要請に応え、用途展開では国内を皮切りに海外にも発信していく。