社会貢献の輪を広げるスタートアップ、なぜ大企業と連携できたのか
社会課題解決を目指して起業するスタートアップ企業が増えている。思い描いた社会貢献の実現には、事業成長が欠かせない。2009年設立のファーメンステーション(東京都墨田区)はJR東日本やアサヒグループホールディングス(HD)など大企業と組み、成長軌道に乗って貢献の輪を広げた。大企業との連携もスタートアップ成長の道筋の一つとなる。
JR東日本、アサヒグループHD、ANAHD、カルビー、象印マホービン、中国銀行―。ファーメンステーションが連携する企業だ(グループ会社との連携を含む)。
ファーメンステーションは休耕田を再開して育てたコメや未利用の天然資源を発酵してエタノールを作り、化粧品などの原材料として販売している。さらにエタノール製造で発生した残さをせっけん原材料や家畜飼料にしている。未利用資源を価値ある商品に変え、廃棄物を出さない事業モデルだ。酒井里奈社長は「ようやく従業員が10人になった」と苦笑するが、大企業と次々とタッグを組んだ。その秘訣(ひけつ)は「企業の困り事の解決」にある。
JR東日本グループは青森産のリンゴ飲料を販売している。課題はリンゴの搾りカスだった。ファーメンステーションはカスからエタノールを製造し、ルームスプレーなどの材料としてJR東に供給。残さ由来の飼料で育てた牛はJR東の関連ホテルで調理する。
象印マホービンからは研究員の相談を受けて炊飯器の試験で炊いたご飯をエタノール化し、ウエットティッシュに仕上げた。中国銀行からは規格外のブドウが持ち込まれた。ウエットティッシュにすることで、農家の廃棄削減と特産のブドウのPRに貢献する。
連携が進んだ背景にESG(環境・社会・企業統治)金融もある。これまで投資家は再利用に費用がかかるのであれば、廃棄を許容する雰囲気があった。今は廃棄物の削減を評価しており、大企業も未利用資源の活用を訴求できる。
酒井社長はスタートアップのスピード感も強みだと話す。大企業の社内に消極的な部署があっても「すぐに商品を見せると納得してもらえる」(酒井社長)という。また「大企業目線でメリットを伝えることも重要」と語る。酒井社長も大手金融会社の出身なので大企業の内情を理解しており、企画が通りやすい提案を心がけている。
もちろん世界観の共有も大切だ。「未利用資源を価値あるものに変え、廃棄をゼロにする文化をつくりたい」と思いを語る。連携先が広がったことで、起業時に思い描いた課題解決を実践できる。
「大企業は理解してくれない」と不満を口にする起業家も少なくない。また大企業を批判、敵視するスタートアップも存在する。逆に大企業はスタートアップを応援しようと協業を模索する。例えばKDDIは10月、気候変動対策のスタートアップに出資するファンドを立ち上げた。
スタートアップには大企業の支援を得られる好機が生まれている。大企業の困り事を解決するなど、お互いが価値を共有できる連携を探ることでスタートアップは成長のチャンスをつかめる。