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自治体でESG債相次ぐ、投資家に利点も顕在化しそうな課題

ESG(環境・社会・企業統治)に使途を限定した地方債の起債が相次いでいる。老朽化インフラの整備や経済正常化に向けて歳出圧力が強まる自治体にとっては資金調達手段を多様化できる一方、投資家は環境対策を後押しする姿勢を示せる利点がある。地方債は信用リスクも低い。発行額を大きく上回る需要がある地方債だが、市場拡大につれて課題も顕在化しそうだ。投資対象が真に環境対策に資するものなのか、事業内容や投資効果を見極める選別が強まる可能性もある。(編集委員・神崎明子)

ESG債には環境に配慮した事業に資金を充当するグリーンボンド(環境債)、社会貢献に充てるソーシャルボンド、双方を兼ね備えたサステナビリティーボンドなどがある。ESG債は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた事業に充てる「SDGs債」とほぼ同義で使われることもある。

国に先行して、自治体では東京都が2017年に初めてグリーンボンドを起債。長野県と神奈川県がこれに続いたほか、政令指定都市では川崎市がグリーンボンド、北九州市はサステナビリティーボンドを発行。三重県や福岡市も21年度中のグリーンボンド起債を計画。三重県は今月19日に充当事業など詳細を発表予定だ。

東京都は、21年度に発行する市場公募債8500億円程度のうち、1000億円をESG債とする計画だ。グリーンボンド発行額は前年度から100億円増額。総額600億円を予定するソーシャルボンドは、これまでに300億円を起債。特別支援学校の整備や中小企業への制度融資の預託金に活用する。

ESG債は一般的な債券に比べ金利など発行条件に大きな差はないが、社会的な関心の高まりは投資家層の多様化に表れている。都のESG債に投資表明した中には、農業協同組合や地域金融機関のほか、通常は年限5年の地方債を購入してこなかった学校法人や社会福祉協議会もある。海外投資家からの需要もあるが、東京都財務局主計部の吉浦宏美公債課長は「起債規模を勘案すると、まずは国内市場に軸足を置きたい」と海外発行には現時点では慎重姿勢だ。

野村証券デット・キャピタル・マーケット部の相原和之ESG債担当部長によると、「世界的にも拡大が見込まれるESG債市場の中でも(公共性が高く資金使途がESGの条件に合致しやすい)地方債は格好の投資材料」。その上で、資金調達する事業が理念に合致しているかはもとより、「(経済的リターンと同時に、ポジティブで測定可能な社会的な効果を同時に生み出すことを目指す)インパクト投資の潮流にどう応えるかが今後の課題」と指摘する。

こうした問題意識は発行体である東京都側も同様で「充当事業については、効果の高いプロジェクトを一層厳選していく」(吉浦課長)とし、投資家に選択される魅力ある地方債の起債を目指す方針だ。

日刊工業新聞2021年11月18日

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