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思惑渦巻くTPP、米中台に参加の動きで最適解探る日本

思惑渦巻くTPP、米中台に参加の動きで最適解探る日本

米中対立のはざまで日本はTPPのかじ取りを模索する

環太平洋連携協定(TPP)への中国や台湾の加入申請を受け、日本を含むアジア太平洋地域の経済連携の行方が注目されている。アジアにおける経済的優位性を確立したい中国、その動きを牽制する米国や日本など各国の思惑が交差する。関税撤廃などで経済的なメリットが期待される一方、米中対立のはざまで日本は経済連携の最適解を導き出せるか。(冨井哲雄、編集委員・池田勝敏)

【覇権狙う中国】最大の貿易相手国も台湾問題無視できず

足元のTPPをめぐる動きを見ると、米国に代わり環太平洋の覇権を握ろうとする中国の意図が透ける。岸田文雄首相は中国の参加について「最大の貿易相手国であり、対話は続けていかなければ」とした上で、「TPPの高いレベルを中国がクリアできるか、なかなか不透明ではないか」とみる。中国・台湾間の緊張が高まる中、両国のTPP加盟申請により、日本の外交は困難な局面を迎えることになる。

すでに「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」に参加する中国だが、TPP加盟へのハードルは高い。TPPへの中国と台湾の加入について日本政府は「RCEPなどに比べ、TPPは工業製品の99%を関税ゼロにするなど格段に質の高い協定だ。この高水準を順守できるか見定める必要がある」(経済産業省担当者)とみる。中国がこうした高いレベルでの自由化に応じられるかが大きな焦点となる。

一方、政府は以前から米国に「TPPに戻ってほしい」と働きかけている。ただ、現在の米国の国内情勢では通商交渉ができる状態にはなく、「なんとも言えない状況。引き続きTPPを含めアジア太平洋地域の経済構築への強化など米国による関与を期待したい」(同)としている。

中国のTPP参加は経済界も注目している。経団連の十倉雅和会長は「CPTPP(現在のTPP)は21世紀型の極めてハイレベルな枠組みだ」とし、中国がハイレベルな条件をクリアできるかを注視している。中国に続き、台湾も加入を申請し、タイや韓国、インドネシアも関心を示しているとされる。「いたずらに人口や実質国内総生産(GDP)のカバー率を上げるのではなく、ハイレベルな枠組みは譲るべきではない」と強調する。日本商工会議所の三村明夫会頭も「CPTPPは日本が主導した世界に冠たるレベルの高い自由貿易協定だ。レベルを絶対に落としてはならない」とクギを刺す。

一方、経済界は米国の変化に期待を寄せている。「米国に早く戻ってもらいたい」と十倉会長がこぼすように、米国のCPTPP復帰は日本経済界も切望するところだ。中国や台湾との加入交渉と同時に「米国になんとか加入してもらうことも画策すべきだ」(三村会頭)との声も上がる。

米国の復帰を求める声は米国経済界でも上がっている。今月オンラインで開催された日米財界人会議は、日米経済界として米国がCPTPPに復帰するよう求めることを盛り込んだ共同声明を採択した。日本側の議長を務めた日米経済協議会の平野信行会長(三菱UFJ銀行特別顧問)は「今年の会議では米国の復帰が必要だという意見が米国経済界からも強く出た。大きな前進だ」としている。

だが米国のTPP参加の見通しには不透明感が漂う。国際経済学者で学習院大学の伊藤元重教授は「米国がTPP復帰に動けば良いが、バイデン政権下ではそうした動きはないのではないか。今の段階でこの先の動きを予想することは非常に難しい」としている。経済連携の場を通じた米中対立は混迷を極めている。

【原点はEPA…TPP・RCEP】自由貿易支えるルール定義

TPPはモノやサービスの関税を引き下げるなどして経済活動を活発にする「経済連携協定(EPA)」の一種。参加国間での関税の引き下げや投資・サービスの自由化を進め、知的財産や電子商取引などの幅広い分野でのルールを決めることが主な役割となる。米国が参加していた当時のTPPと区別するためCPTPPとも言う。

海外の成長市場を取り込むことで、GDPで8兆円の押し上げ効果と、労働人口0・7%に当たる46万人増の効果を見込む。世界で保護貿易主義的な傾向が強まる中、自由で公正な21世紀型のルールを作ることが重要になる。

一方、もう一つのEPAとして注目されるRCEPの発効が2022年1月に迫っている。RCEPでは日本にとって初めて中国と韓国との間にEPAを結ぶことになる。

RCEPはTPPの規模を大きく上回る。政府が3月に公表したRCEPによる経済効果の分析では、関税引き下げの最終年度に日本の関税収入は3159億円減少するが、日本からの輸出品にかけられる関税が1兆1397億円減るとの結果を示した。

伊藤教授は「世界全体で中間財の貿易が増えており、TPPやRCEPなど多国間連携の意義は大きい」と強調する。

日刊工業新聞2021年10月18日

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