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【音声解説】コロナ禍のオフィスで注目高まるデザイン。「バイオフィリック」とは?

ニュースイッチは音声メディア「ニュースイッチラジオ」を配信しています。記者やデスクなどが記事を解説するコーナーなどを行っています。配信は毎週火・木曜日の朝7時。アーカイブでいつでもお聞きいただけます。
43回目は「コロナ禍のオフィスで注目高まるデザイン。「バイオフィリック」とは?」について、第二産業部の大城記者が解説します。記事と合わせて音声解説をお楽しみください。
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人は本能的に自然を求めるとの考えに基づくデザイン「バイオフィリックデザイン」が注目されている。観葉植物や鳥のさえずりといった自然音をオフィスに取り入れることで、健康増進や生産性の向上につながると期待される。コロナ禍でテレワークが浸透し、オフィスに来る必要性が低下する中、会社でしか提供できない環境をつくる一つの仕掛けとして活用する動きが広がっている。(大城麻木乃)

植物・鳥のさえずり、五感を刺激 幸福度・生産性・創造性高める

「オフィスに来る社員が多く、緊急事態宣言下で人数制限をするのが大変だ」―。三井デザインテックの見月伸一執行役員は、こう打ち明ける。同社は7月に本社を東京都港区から銀座に移転した。オフィスの真新しさもあるが、社員を本社に惹きつける要因の一つにバイオフィリックデザインがある。

「サンルーム」と呼ばれる部屋には、太陽の光に合わせて朝は明るく、夜にかけて暗くなる自然のリズムを取り入れた照明を導入。人目に付く場所には、植物のグリーンを配置し、まるで森の中に入ったようなリラックスした雰囲気が味わえる。「人間が起きている時間の約半分は勤務時間。働く環境をよくすることで社員の健康や幸福度の向上に貢献したい」(見月執行役員)と狙いを語る。

シェアオフィスを手がけるベンチャーのポイントゼロ(東京都千代田区)もオフィスにバイオフィリックデザインを導入している。同社はダイキン工業やオカムラなどが共同出資して設立。植物や川のせせらぎなどの音に加え、避暑地の心地よい風を扇風機で再現した場所もある。「グレーの無機質な空間よりも、緑や自然音など五感が刺激される環境の方が創造的な仕事ができる」と遅野井宏取締役は強調する。

熊谷組と住友林業は今春、木が持つ疲労感を和らげる効果などを狙った中大規模の木造建築ブランド「with TREE(ウィズ・ツリー)」を立ち上げた。バイオフィリックデザインの要素を取り入れ、環境と健康を両立する建物の普及を目指している。

空間デザインでストレス軽減 職場環境・健康を両立

バイオフィリックデザインは、米国の生物学者エドワード・ウィルソン氏が提唱した「人間には自然とつながりたい本能的欲求がある」という概念を反映した空間デザインを指す。海外では、緑を多く取り入れた米グーグルや米アマゾン・ドット・コムの本社が有名だ。日本でも自然との共生をうたったヤンマーホールディングスの本社ビルや、竹中工務店の東京本店が代表例とされる。ヤンマーの本社が完工した2014年頃から日本でも知られ始めていたが、コロナ禍で注目度が一段と高まっている。

その理由として「コロナでストレスがたまり、癒やしを求める人が増えた」と三井デザインテックの植栽を担当した第一園芸営業開発課の鈴木敦貴氏は分析する。もうひとつに在宅勤務やテレワークが広がり、「オフィスの役割が改めて問い直された」ことがある。自宅でも仕事はできるが、オフィスに来れば健康的になれたり、生産性や創造性が高まったりすると、オフィスに行く動機が生まれる。その動機付けの一つとして利用されているというわけだ。海外の調査では、バイオフィリックデザインを職場に導入したことで、幸福度は15%、生産性は6%、創造性は15%上昇したとの報告がある。

ただ、以前から観葉植物を多く導入したオフィスは存在した。では、これまでとの違いは何か。バイオフィリックデザインの導入サービスを手がけるパソナ・パナソニックビジネスサービス(大阪市中央区)の岩月隆一副社長は「エビデンス(根拠)に基づくデザインを採用していることだ」と説明する。

同社では豊橋技術科学大学大学院の松本博名誉教授らが提唱する人の視界に占める緑の最適な割合「緑視率10―15%」を活用している。人の視界、おおよそ120度の範囲内に植物を10―15%の割合で配置することで、植物によるストレス軽減効果が最大限引き出されるという。

第一園芸は独自の実証実験により「緑視率6―8%」を目安とした。この割合で「最も自律神経のバランスが理想的な状態になった人が多かった」(第一園芸の鈴木氏)としている。緑が部屋の中に多すぎると、圧迫感や違和感を抱く人がおり、生産性を下げる要因になりかねない。いかに人が心地よさを感じる程度に配置するかが、植栽や空間デザインを手がける各社の腕の見せどころとなっている。

コロナ禍の長期化で国民の疲労感はピークに達しつつある。オフィスに癒やしを求める動きは、今後も増えそうだ。

テレワーク疲れ、顕著に

日本生産性本部の調査で「テレワーク疲れ」の実態が明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大が始まって普及したテレワーク。足元の実施率は依然として2割前後で推移しているものの、テレワーク実施者の1週間当たりの出勤日数は増加しているという。

7月の調査結果によるとテレワークの実施率は20・4%だった。4月調査から1・2ポイント増加したが、出勤日数が週当たり「0日」の完全テレワークを行った割合は11・6%と、過去6回の調査で最小となった。

雇用者全体に占める“完全テレワーカー”の割合も減少傾向にあり、7月の結果は2・4%と初めて3%を下回ったという。20年5月時点で10%を上回っていたことを踏まえると、オフィスへの回帰が進んでいることがうかがえる。

インタビュー/パソナ・パナソニックビジネスサービス副社長の岩月隆一氏 ESG投資が追い風に

バイオフィリックデザインに詳しいパソナ・パナソニックビジネスサービスの岩月隆一副社長に、同デザインの現状と今後の見通しを聞いた。

―日本の普及状況をどう捉えていますか。 「山で言えば2―3合目ぐらい。流行に敏感なアーリーアダプター(初期採用層)が導入している印象だ。今はオフィスが中心だが、図書館や医療施設など市場開拓の余地はまだ大きい」

―なぜ注目されていると思いますか。 「20年度の当社へのバイオフィリックデザインの問い合わせ件数は前年度比5割増だった。コロナ禍で一層関心が高まった働き方改革の一環で、導入を検討する企業が多い。ある地方企業では、良い人材を獲得する目的で取り入れたいという理由だった」

―今後の見通しは。 「中長期的には環境という意味の“グリーン”に対する世界的な関心の高まりが、普及を後押しするとみている。また社員の働きやすさなど、非財務情報を重視するESG(環境・社会・企業統治)投資が広がっていることも追い風になるだろう」

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