定期交代制の前に監査法人がやるべきこと

文=木村浩一郎(PwCあらた監査法人代表執行役)

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木村氏
 監査における重要な要素に客観性がある。監査人と監査先との間になれ合いがあっては監査が意味をなさない。

 しかも、監査人に求められる客観性には懐疑心の保持も含まれる。もちろん、何でも疑ってかかるのでは監査の経済合理性が成り立たなくなってしまうが、あらかじめ行われた監査リスク分析に基づき、リスクの高いところには監査人の職業専門家としての懐疑心が発揮されなければならない。

 この監査人の客観性を確保するために、監査人には独立性が求められている。すなわち、監査人と監査先とは監査報酬以外に重要な経済的関係を持たず、監査人は精神的に独立していることはもちろん、外見上も監査先から独立していることが求められている。

 ところが、いざ監査の失敗が起こり、不正を見抜けない事故が起きると、監査人と監査先の癒着が疑われたり、長年担当していることから来るマンネリが指摘されたりする。そして、これを防ぐためによく議論されるのが、監査法人の定期的な交代制である。

 欧州では10年に一度監査人を見直すこととされている。一方、米国では監査法人の定期的な交代制度に関する検討は議会の判断で停止されている。これは、定期的な交代制には弊害も伴うからである。

的確にリスクを見極めるには2、3年必要


 監査は限られた時間の中で、不正リスクに集中するなど、しっかりとメリハリをつけて実施されなければならない。したがって、監査上のリスクを事前に的確に見極めることが重要となるが、監査先の規模が大きく複雑になるほど、この見極めには高度な知識と経験が求められる。経験的に言えば、大企業の全貌(ぼう)をつかみ、本当に的確にリスクを見極めるまでに、2、3年かかることも珍しくない。

 もちろん、初年度の監査においても手厚く監査手続きを実施するので不正を見逃す可能性が高いとは言わないが、これはコストアップの一因となる。監査先に関する知識と経験の蓄積は、効果的・効率的な監査のためにとても重要なのである。

 この蓄積された知識と経験が、監査法人が代わることで失われてしまう。監査法人間の引き継ぎにもおのずと限界がある。したがって、監査法人の交代は、この弊害を上回るメリット、たとえばより高度な監査技法の活用、多国間での一貫した監査アプローチ、優秀な人材の配置などが確保される場合に行われるべきことである。

同じ監査法人でも毎年少しずつ変わっている


 わが国では、監査法人を代えなくても、監査責任者は5―7年ごとに交代することとされている。また、監査法人は定期的に金融庁傘下にある公認会計士・監査審査会の検査や日本公認会計士協会の品質管理レビューを受け、継続的な監査品質向上に努めている。

 加えて、大手法人は米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)の検査を受け、自らが所属するグローバルネットワークによる品質レビューも受けて、問題点の改善を行っている。

 その結果、監査手法は毎年のように少しずつ変わっているのが実態であり、しっかり自己規律の効いた監査法人であれば、長年同じ法人だから監査手法が固定化してしまっているとは言い切れない。

 自社の監査人が常に効果的・効率的な監査を実施しその結果を報告してくれることは、株主が安心して投資し、経営者が安心して経営に集中するために重要である。

 したがって、経営者や監査役は監査人の力量を見極めるために、監査人がどのようにリスク評価しているのかよく聞き、他の監査人のアプローチについても理解を深めることが肝要である。そのために監査法人の説明責任は重要性を増している。単なる監査法人の定期的な交代から得られるものはあまりない。
【略歴】
 木村浩一郎(きむら・こういちろう)87年(昭62)早大政経卒。青山監査法人入所。プライスウォーターハウスシカゴ事務所出向等を経て、00年中央青山監査法人代表社員、12年あらた監査法人(現PwCあらた監査法人)代表執行役。公認会計士。福岡県出身、52歳。

日刊工業新聞2015年12月7日パーソン面

COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

欧州では一部の国で交代が法制度化されました。米国では企業側の反対が強いそうです。WSJによると、Russell3000の企業平均で16年同じ監査法人が続いているそうで、中でもP&Gが最長でデロイトの監査が125年続いているとか。

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