ロボットの研究と競技は両立するか、「WRS」が示した新しい姿
学会と競技会、研究と競技は両立するのか-。
愛知国際展示場(愛知県常滑市)で開催中の国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)2020」と日本ロボット学会の学術講演会の日程が重なった。普通なら両方に参加するのは不可能だ。だがコロナ禍のため、双方ともリモート参加が可能になった。競技会場から学会発表する研究者もいる。研究と競技を両立できる新しい姿がそこにはあった。
「博士論文の研究とWRSは別テーマ。同期から『ロボットなんて開発していていいのか』と聞かれる」と東京大学の松嶋達也大学院生は苦笑いする。所属は人工知能(AI)で有名な東大・松尾研究室だ。大量のデータを必要とする深層学習(ディープラーニング)とロボットの相性は必ずしもよくない。
深層学習の本流はインターネット空間などに存在する膨大なデータを学習させる研究だ。実機を扱うロボットはデータを作るコストが高く、深層学習が求めるデータ量をそろえるのに苦労する。つまり燃費が悪いのだ。
だが、この制約がAIとロボットの融合研究をハイリスク・ハイリターンなフロンティアにした。松嶋さんは「自分の研究を深層学習という枠に押し込みたくない。システムの中で機械学習をうまく使う方法論を探っている」と説明する。
博士論文のための研究とは別に、要素技術を統合してシステムと稼働させる場としてWRSを活用している。深層学習をロボットに組み込むには、計算コストやノイズ耐性、安定性など、複数の要件を同時に満たす必要がある。競技会でロボットを通じて、研究と実用技術の接点を探す。
WRSの会場から学会に参加する“強者”もいる。金沢大学の西村斉寛助教はWRSに向けて開発したロボットハンドを学会発表した。オンラインで他の研究者の発表を聴くのでなく、競技会で稼働中の技術を、競技会場から学会の研究者たちに解説というする新しいスタイルだ。
西村助教は「競技と発表の時間はずらしてもらえた。静かな会議室があれば質疑応答も問題ない」と説明する。学会も競技会もリモート参加を前提としたため両立が可能になった。
従来、ロボコンなどの競技会は、研究よりも学生の教育として参加するものという風潮があった。学生たちが一丸となり競い合う姿は確かにドラマになる。一方で競技テーマがロボットを使った輪投げや玉入れなどと、一般向けのコンテンツとしては絵になっても、これが何の役に立つのか、わかりにくいという問題があった。
WRSでは競技課題を解けば産業につながる技術をテーマとした。競技会に向けて開発した技術が、競技会のためでなく、社会のためになりやすい。論文のための研究でなく、課題解決に挑戦した結果が論文になる。
そして競技会では、明日11日までに問題を解かなければライバルに負ける、などと追い込まれる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の細谷克己主査は、「一人でなく、チームとして追い込まれる点が大きい」と指摘する。必死に考えれば普段出ないアイデアも生み出される。そしてアイデアを全員でひねり出して実装する。普段の研究室にはない速度でアイデアが形になる。
研究と競技は両立する。WRSは普段の研究室からは生まれない成果も生み出している。