トヨタの歩行支援ロボットなどが活躍。地域医療センターが挑むリハビリの質向上への挑戦
けがや脳卒中の影響で手足が不自由になった人のリハビリテーションでロボットが活躍している。豊田地域医療センター(愛知県豊田市)は、歩行訓練や上肢の機能回復などの支援にロボットを活用する。導入を推進したリハビリテーション科の医師で太田喜久夫藤田医科大学教授は「ロボットによる情報の見える化は地域医療の質を高める」として、医療機関や介護施設、行政などが連携する「地域リハビリテーション」への応用を目指す。(名古屋・永原尚大)
「今から歩きますよ」。理学療法士が患者に声を掛けるとトヨタ自動車製の歩行支援ロボット「ウェルウォーク」がゆっくりと動きだした。足の振り出しを補助する装具を着けた患者が、ウェルウォークの一部であるトレッドミル(ランニングマシーン)の上を歩く。患者の正面に設置されたモニターには足の重心のかけ具合や歩行の姿勢が表示され、運動機能が見える化される。過去の訓練結果との比較もできる。太田教授は「患者はフィードバックを受けながら歩行訓練ができる」と効果を説明する。
2020年12月に新たに開設した同センター診療棟の2階はリハビリ用フロアだ。マッサージ用ベッドなどが並ぶ中で目を引くのは3台のロボット。ウェルウォークの他に、トヨタ製の「バランス練習アシスト(BEAR)」、帝人製の「ReoGo―J」が置かれている。BEARは、パーソナルモビリティーのような搭乗型ロボットに乗り、テニスやスキーゲームを通じてバランス感覚を鍛えられる。ReoGo―Jは、アーム操作によって上肢の関節可動域を改善させる訓練装置だ。
リハビリの現場でロボットを活用する取り組みは18年4月から始まった。豊田市とトヨタ、藤田医科大学の産学官が連携し、ロボットやIT技術を同センターで活用する実証研究がきっかけだ。
医療としてのリハビリだけでなく、地域住民の健康増進を図る予防的リハビリを含めた「地域リハビリテーション」に貢献するものとして期待されている。
「情報の見える化が重要だ」と、太田教授は説明する。地域リハビリは病気になり始めた「急性期」から「回復期」、在宅で生活する「生活期」の各段階にてシームレスな連携が欠かせない。ロボットなどを通じて運動機能や生体情報を取得することで連携を加速できるという。
そのためには理学療法士などの訓練士が患者の情報を読み取り、適切な訓練などを考える力を養成することが欠かせない。22年4月には「総合療法士育成センター」を開設し、ロボットやITの活用を通じて、地域リハビリを実現する人材の育成を図る。
太田教授はリハビリロボットの活用について「(訓練士の)人間力の強化が大切だ」と指摘する。歩行訓練が効率的になったとしても、不安感の低減や患者の体に触れてサポートする行為は人にしかできない。ロボットを活用した地域リハビリの確立に向けて模索が続く。