世界のロボット技術を集めた一大イベント「WRS」にコロナ禍が与えた機会
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するイベント「ワールド・ロボット・サミット(WRS)2020」が9日に始まる。世界からロボット技術を集めて、それを開発する技術者や研究者の姿をみせる。未来のロボット社会を考え、技術と社会がともに進化する場になる。WRS実行委員会委員長の佐藤知正東京大学名誉教授に聞く。(取材・小寺貴之)
―ワールド・ロボット・サミット(WRS)2020の意義は。
「ロボット技術と未来社会を見せる展示会と技術を競う競技会で構成している。展示会でロボット社会へのロードマップを示し、競技会で切磋琢磨する姿を見せて実用技術と実践人材を見つけてもらう。競技会はホテル王が懸賞金をかけてリンドバーグが大西洋を横断し大西洋航路が開かれた。米DARPAが自動運転の競技会を開き、今日の自動運転技術につながっている。展示会は1889年のパリ万博のエッフェル塔など、鉄とガラスの技術が街の景観さえ変えることを示した。WRSでは展示会と競技会を組み合わせて未来の社会を作っていく」
―技術を示せば社会実装されますか。
「社会実装は技術者側からみた言葉だ。開発した技術を社会に実装する。だが社会側に立つと違って見える。社会実装とは社会作りなのだ。新しい技術を受け取るのでなく、うまく使うための仕組みや現場、人材、環境を整える必要がある。これには時間がかかる。WRSではロボットの現在と未来を発信する。同時に未来社会に向けて技術を開発する研究者や技術者の姿が見える。課題は技術だけではない。WRSを人とロボットが共生し、協働する社会作りの場にしたい」
―コロナ禍で競技会を囲む環境が変わりました。
「展示会はオンライン。競技会は無観客とし、選手は一部リモート参加に切り替えた。コロナ禍は三つの側面を持つ病だ。一つは生命を脅かす病だ。二つ目は人と人を引き離す病。三つ目は社会に制限を課す病だ。オンライン会議が当たり前になり、毎週のように会議をしていても実際に会うときには『お久しぶりです』と挨拶してしまう。コミュニケーションはできても一緒につくることが難しい。ここにオンラインの限界がある。そしてコロナ禍が収束したら、すべて解決するかというとそうではない。コロナ禍はスタートだ。今後、地球の持続可能性やSDGsなど、これまでと同じように消費し続ける社会は受け入れられない。人々が勝手気ままに動けない場面は増えていく。リモートで働くための環境を広げつつ、対面で会う時間はこれまで以上に有効に使うことが求められる。WRSはコロナ禍を受けて形を変えたが、新しい社会に適応する機会を与えられたと考えている。運営側にとっても、大きなチャレンジになっている。厳しい一歩だが、一歩を踏み出せた」
―WRSを観戦する見所は。
「企業は実用技術と人材を探す機会になる。競技者にはチャレンジを通して学ぶ機会にしてほしい。観戦する学生は競技者が挑戦する姿、子どもたちにはロボットの働く姿に感動してほしい。21世紀はロボットの世紀だ。フューチャーコンビニエンスストアチャレンジなど、未来の提案は見応えがあるはずだ。ビジネスを考えると、技術を開発して、どんな製品を作り、どんな顧客に届けるか。そしてどんなビジネスモデルを組み立て、業界にどんな影響を与え、産業を興すか。技術から産業化まで視野を広げて見てもらいたい」
―ジュニア部門など学ぶ要素も大きいです。
「コンテストは技術者を育てる。学校は失敗を通じて学び方を学ぶ。ただ社会に出てから失敗が許される場面はなかなかない。WRSは大いに挑戦して失敗が許される場だ。挑戦することが評価される。参加企業は経営者やリーダーは当然必勝を掲げているだろう。だが参加チームで優勝できるの1チームだけだ。そんなことはみなわかっている。競技会での挑戦を通じて技術者たちの成長を促している。同時に評価する我々も勉強させてもらっている。ジュニア部門の評価はオンラインだ。限られた情報と時間で子どもたちを評価する。これはコロナ禍に教育や評価が対応していくチャレンジになる。これまでは目の前で実演させればわかった情報を画面越しに引き出していく必要がある。WRSを通してこうした教員のノウハウを抽出していきたい」
―海外では企業主導で華々しい競技会を開いても、それで終わってしまう事例が少なくないです。
「継続することが重要だ。米国の自動運転のコンペなどは一過性のイベントになってしまった。それでも大規模でインパクトがあった。日本がやるなら継続性が重要だ。日本は技術を熟成させる力にたけている。米国でT型フォードの量産が始まったが、日本で量から質への転化が起きている。信頼性を高め、燃費を高め、量でなく質的に上回った。これは継続的に改善を積み上げた結果だ。新技術を開発するだけでなく、技術を成熟させて社会に受け入れられるものにしていく。こうした未来を社会とともに作っていく努力は継続性がなにより重要だ」