【音声解説】“仮想オフィスにアバターで出社”は当たり前の働き方になるか。現状と普及へのカギ
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37回目は「“仮想オフィスにアバターで出社”は当たり前の働き方になるか。現状と普及へのカギ」をテーマに仮想オフィスのサービスを提供するスタートアップ、OPSIONの深野崇社長に行ったインタビューの模様をお届けしています。OPSIONの創業の経緯などを紹介した記事と合わせて音声配信をお楽しみください。
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3次元(3D)の仮想空間に再現したオフィスにアバターが出社し、オフィスにいるかのように同僚と気軽にコミュニケーションが取れる―。OPSION(大阪市北区)は、そんな環境を実現するサービス「クラウドオフィスRISA(リサ)」を展開する。新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワークの広がりが生んだ「オフィスでは自然に生まれていた同僚と軽い相談や日常会話をする機会が作りにくい」といった課題を解消する。7月に提供を開始したベータ版は100社以上が試行し、11月には東証一部上場企業など約10社との製品版の有償契約が決まった。また、クラウドワークス(東京都渋谷区)と資本業務提携を結び、継続的に機能を拡充していく環境も整えた。
リサはかつて期待通りに需要が高まらず、一度事業撤退に追い込まれた。コロナ禍が起こした働き方の変化を追い風に、再挑戦の舞台に立った。(取材・葭本隆太)
クラウドオフィス「リサ」:自分だけのアバターを作成し、職場の同僚との仮想のオフィス空間の共有を可能するサービス。テレワーク環境によって失われた雑談の機会などを生み出す。音声通話やチャットができるほか、隣の人の肩をたたくように、相手のパソコン画面にポップアップ通知を送るノック機能がある。また、アバターがいるエリアごとに音声通話やチャットの共有が制限されるため、個別の会話もできる。ブラウザ上で作動するためアプリのインストールなどは必要ない。
新しい仮想世界を作る
「貧しい家庭で育ち、生まれた環境によって不都合が生じるのは不公平だと感じていました。そこで(環境によらず、誰もがやりたいことに挑戦できる)新しい仮想世界を作りたいと思いました。その中でまず着手するテーマとしてテレワークの環境でも、オフィスにいるようにコミュニケーションできる仮想世界を作ろうと考えました」。2019年1月にOPSIONを起業した深野崇代表取締役は、リサを開発した背景をそう説明する。
当時は東京五輪・パラリンピックの開催に向けてテレワークが普及し、それに伴って「同僚と軽い相談や日常会話をする機会が作りにくい」といった課題が顕在化すると考えた。ただ、期待した通りには進まなかった。
「企業は19年までテレワークに対する積極さがありませんでした。私たちはエモーショナルな課題を想定しており、それに対する切実さは当然、生まれませんでした」。
資金繰りの悪化を背景に19年11月にはサービスを停止し、開発チームも解散した。コロナ禍による強制的な働き方の変化が起きたのはそれからわずか半年後だった。
「正直、再挑戦には葛藤がありました。サービスを停止した際に、リサを開発するために集めたエンジニアたちとのチームを解散して1人になったので。苦い思い出が残った状態で、すぐにもう一度やろうと振り切れませんでした。ただ、サービス停止後にVRゲームなど(仮想世界を生かしたビジネスの)別の切り口を模索していた中で、トレンドは何に置いても重要な要素だと考え、リサに取り組むのは今しかないと思いました」
6月ころに再挑戦を決断し、開発チームを一から作り直した。10月には製品版の提供にこぎ着け、11月には念願の有償契約を獲得した。オフィス空間が常に存在することで、オンライン会議では捉えきれないコミュニケーションの機会を作れる点などが評価されているという。
「(有償契約の獲得は)嬉しかったですね。これまで存在していなかったモノを作って、人がそれに価値を感じてくれるという体験にはなかなか味わえない喜びがあります」
正解がない領域に挑む
とはいえ、リサはビジネスで使っていく上で必要な機能がまだまだ足りないと感じている。自分のタスク状況を同僚に示すステータス機能や、同僚がログインした際に他のチャットツールに通知する連携機能などを今後3ヶ月程度で実装していく。また、仮想世界だからこそ実現できるオフィス環境の構築も重要視する。
「仮想世界は物理法則を超越して人の想像力を反映させられます。仕事が完了したときに気持ちのいい音がなるとか、視覚的に気持ちいい表現を表示するとか。そうした過剰な表現ができるのも仮想世界ならでは。また、いい仕事をした人にポイントを付与してアバター(の服装など)をカスタマイズできるといったゲーム要素も取り入れていきたいです。仕事が終わった時にゲームクリアみたいな喜びや気持ちよさを作っていけると思っています。そうした機能を実装していきます」
足下の目標は、有償契約のID数を現状の200―300件から今年度末までに1000件にすること。まずは社内のコミュニケーションをよりよくするプロダクトを目指すが、中長期的には社外の人などともやりとりできる仮想世界を展望する。
「3Dを使ったバーチャルオフィスのサービスを提供する企業は、日本に私たちしかいないと思っています。正解がない領域で挑戦的なテーマですが、その分とてもやりがいを感じています」。
今までにはない世界を創造していくOPSIONの挑戦はまだ始まったばかりだ。