トヨタが株式投資の苦手意識を和らげた?
企業の「個人株主」開拓は功を奏すか
個人株主の開拓に力を入れる企業が増えている。個人投資家は機関投資家と違い、株価の低迷期に株式を買い長期保有する傾向があるため、長期的に見ると株価の安定につながりやすいメリットがある。個人投資家は全国で2300万人とも言われる。企業は個人向けの説明会を増やし長期保有優遇型の株主優待を導入することで、限られたパイの獲得に努めている。
「株主となれば当社の商品・サービスを身近に感じて頂くことができる。個人投資家向け説明会に注力するのは、ロイヤルカスタマー層の形成も狙い」とKDDIの担当者は語る。同社は上場企業の中でも特に個人投資家向け説明会に力を入れており、年間30回以上のペースで説明会を開催している。最近の説明会については「高齢の参加者が圧倒的に多い」と同社。「アンケートに回答してもらえる割合が高いので、個人株主拡大策の参考にしている」という。
個人投資家向け説明会を増やしているのはKDDIだけではない。野村ホールディングスによると、同社グループに個人投資家向け説明会を委託する会社数は大幅な増加傾向。2015年度は14年度より15%増加。これは10月末時点の数字のため、年度末にはさらに増える計算だ。
野村インベスター・リレーションズの濱地保則業務企画部長は「最近は開催数を増やしたり、地方で開催する企業が増えている。現役世代の投資家を取り込むため、夕方や土曜日に開催するケースも多い」と実態を語る。
個人投資家の獲得に効果があるとされるのが株主優待だ。特に投資余力が少ない若年投資家は、優待も含めた利回りを計算して投資先を決める傾向が強い。最近では、株式の長期保有を促すため、長期保有優遇型の優待を導入する企業が増えている。
大和インベスター・リレーションズの調べによると、長期保有優遇型優待の導入を発表した企業は13年は16社だったが、15年は57社に急増した。6月から新たに長期保有優遇型優待を導入したヨロズの西村裕一郎総務部長は「株価が好調に推移し個人株主が買いにくい価格となったため、長期保有優遇株主優待を導入した。個人株主の減少率が鈍化しており一定の効果が出た」と語る。
個人投資家の開拓策として白眉だったのは、7月にトヨタ自動車が発行し話題を呼んだ「AA型種類株」だ。事実上の元本保証を付けたことで、国民の株式投資への苦手意識をやわらげた。販売を担った野村証券には5000億円の公募に対し5倍―10倍の応募があったと言われる。今回の好結果には企業も投資家も関心が高いため、今後は他企業でも同様の取り組みが見られるかもしれない。
企業の株主構成に個人投資家の割合が増えることは、株主通信の発行が増えるなど管理コスト増大も意味する。ただ長期保有者が多い個人株主が増えることは、一部の機関投資家の意見に振り回されない経営体制が構築できることであり、何よりも企業の直接的なファンが増えることにつながる。
少額投資非課税制度(NISA)の普及や郵政上場などを通じて個人投資家層の裾野が広がるなか、個人株主獲得に向けた企業のアピールは一層強くなりそうだ。
(文=鳥羽田継之)
「株主となれば当社の商品・サービスを身近に感じて頂くことができる。個人投資家向け説明会に注力するのは、ロイヤルカスタマー層の形成も狙い」とKDDIの担当者は語る。同社は上場企業の中でも特に個人投資家向け説明会に力を入れており、年間30回以上のペースで説明会を開催している。最近の説明会については「高齢の参加者が圧倒的に多い」と同社。「アンケートに回答してもらえる割合が高いので、個人株主拡大策の参考にしている」という。
個人投資家向け説明会を増やしているのはKDDIだけではない。野村ホールディングスによると、同社グループに個人投資家向け説明会を委託する会社数は大幅な増加傾向。2015年度は14年度より15%増加。これは10月末時点の数字のため、年度末にはさらに増える計算だ。
野村インベスター・リレーションズの濱地保則業務企画部長は「最近は開催数を増やしたり、地方で開催する企業が増えている。現役世代の投資家を取り込むため、夕方や土曜日に開催するケースも多い」と実態を語る。
長期保有優遇、導入策相次ぐ
個人投資家の獲得に効果があるとされるのが株主優待だ。特に投資余力が少ない若年投資家は、優待も含めた利回りを計算して投資先を決める傾向が強い。最近では、株式の長期保有を促すため、長期保有優遇型の優待を導入する企業が増えている。
大和インベスター・リレーションズの調べによると、長期保有優遇型優待の導入を発表した企業は13年は16社だったが、15年は57社に急増した。6月から新たに長期保有優遇型優待を導入したヨロズの西村裕一郎総務部長は「株価が好調に推移し個人株主が買いにくい価格となったため、長期保有優遇株主優待を導入した。個人株主の減少率が鈍化しており一定の効果が出た」と語る。
個人投資家の開拓策として白眉だったのは、7月にトヨタ自動車が発行し話題を呼んだ「AA型種類株」だ。事実上の元本保証を付けたことで、国民の株式投資への苦手意識をやわらげた。販売を担った野村証券には5000億円の公募に対し5倍―10倍の応募があったと言われる。今回の好結果には企業も投資家も関心が高いため、今後は他企業でも同様の取り組みが見られるかもしれない。
企業の株主構成に個人投資家の割合が増えることは、株主通信の発行が増えるなど管理コスト増大も意味する。ただ長期保有者が多い個人株主が増えることは、一部の機関投資家の意見に振り回されない経営体制が構築できることであり、何よりも企業の直接的なファンが増えることにつながる。
少額投資非課税制度(NISA)の普及や郵政上場などを通じて個人投資家層の裾野が広がるなか、個人株主獲得に向けた企業のアピールは一層強くなりそうだ。
(文=鳥羽田継之)
2015年12月3日付日刊工業新聞金融面