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【音声解説】携帯大手の料金引き下げで格安スマホに淘汰の気配。生き残る道はどこか?

ニュースイッチは音声メディア「Voicy」で「ニュースイッチラジオ」を配信しています。ニュースイッチで反響をいただいた記事を書いた記者が解説する深掘りコーナーなどを行っています。配信は毎週火・木曜日の朝7時。アーカイブでいつでもお聞きいただけます。
34回目は「携帯大手の料金引き下げで格安スマホに淘汰の気配。生き残る道はどこか?」について第一産業部の斎藤記者が解説します。紹介した記事と合わせて音声配信をお楽しみください。
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通信回線を借りて格安な通信サービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)の淘汰(とうた)が進む可能性が強まっている。通信設備を自ら保有する移動体通信事業者(MNO)が、データ通信をあまり使わない人向けの格安な料金プランを相次いで投入。この領域を主戦場としてきたMVNOからの顧客流出が加速しかねない。MVNOは収益源を多様化する必要があるが、スピード感と実効性を発揮できるか試される。(編集委員・斎藤弘和)

低容量帯で競争激化 ソフトバンク皮切りに 3ギガ990円

「思い切り踏み込んだ。我々は、今までプライスリーダーだと言いながら、どこかで守りに入っていた部分もあった。一度、原点に戻って攻め側に回りたい」―。宮川潤一ソフトバンク社長は、個人向け携帯通信サービス「LINEMO(ラインモ)」の新料金「ミニプラン」の提供を7月15日に始めた背景について、こう語る。

ミニプランは月間データ容量が3ギガバイト(ギガは10億)で、月額基本使用料は990円(消費税込み)。ラインモは従来、20ギガバイトで月2728円の料金設定だったが、ミニプランを追加した。

3ギガバイトで1000円前後という価格帯は、これまで主にMVNOが提供してきた。例えばNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「OCNモバイルONE」は990円で、ラインモのミニプランと同価格だ。

一般的に、MVNOはMNOから帯域を借りている関係上、平日の正午過ぎなどの利用者が多い時間帯には通信速度が低下しやすい。こうした点を理解している消費者は、MNOとMVNOの価格差が縮小することでMNOを選ぶ可能性が高くなると考えられる。

ソフトバンクは以前から、関連会社で提供するMVNOサービス「LINEモバイル」利用者のラインモへの移行を狙ってきた。だが、LINEモバイルから他社へ流出する事例も出始めていたという。ソフトバンクがこの原因を調査したところ、「3ギガくらいしか使わないので、もう少し安価な価格帯がほしいとの声が多かった。外へ出て行くよりはまし、と思って踏み込んだ」(宮川社長)。

MM総研(東京都港区)によると、2020年12月時点では、スマートフォン利用者の60・1%が、月間に使うデータ容量が3ギガバイト以下だった。

3ギガバイトの料金をめぐっては、KDDIも6月10日から「UQモバイル」ブランドで、家庭向け電気サービスの加入を条件に990円で提供する取り組みを始めた。

高橋誠KDDI社長は、MVNOとMNOがどう市場を分け合うようになると考えているかとの問いに対して「日本の政策はMNO4社で競争して値下げによる顧客還元を広げていこう、ということ。顧客サービスを良くすることは我々もやっていかねばならない。MVNOの競争する領域が狭まっていくとは思うが、将来どうなるかを考えている余裕はあまりない」と答えた。今後も低容量帯でのMNOの競争が激しくなる可能性がありそうだ。

法人向けなど開拓カギに

携帯通信料金引き下げの潮流を受けたMVNOの経営はどうなるのか。

MVNOは通信料値下げによる消耗戦が懸念される(IIJの消費者向けサイト)

MVNOシェア首位(3月時点、総務省調べ)のインターネットイニシアティブ(IIJ)は、22年3月期のモバイル事業の売上高が、前期比約83億円減の392億円になる見通し。21年4月から個人向けの割安な新料金「ギガプラン」を投入したことに伴い、ARPU(契約者1人当たりの平均収入)の減少が見込まれることなどが要因だ。

21年4―6月期の個人向けモバイル事業はギガプランの効果により回線数が前四半期比で増加に転じたものの、売上高は前年同期比約4億円減の53億9000万円となった。勝栄二郎IIJ社長はラインモのミニプランについて「今のところさほど影響はない」とするが、他のMVNOがミニプランへの対抗策として新料金を投入した場合、競争がさらに激化してIIJの契約数増加にブレーキがかかる懸念もある。

ただしIIJのMVNO事業では、法人向けの売り上げが順調に伸び続けている。ネットワークカメラや、交通系IC決済対応端末などでの導入が拡大。勝社長は「最近、IoT(モノのインターネット)のニーズが非常に高まっている」と手応えを示しており、今後も個人向けの苦戦を補う期待がかかる。

だが、中小のMVNOがIIJを手本にするのは難しい面もありそうだ。

MM総研の横田英明常務は法人向けIoTについて「薄利多売だし、ある程度最初は赤字を出しながらサービスをやらないといけない。技術力と資金力があるところならできるが、中小クラスでは体力的になかなか厳しい」と指摘する。MNOの通信料引き下げで個人向け事業が苦しくなったMVNOが、今から法人向けに本腰を入れるようでは遅いかもしれない。

接続料下げへ要望

他方、MVNO各社は、総務省への働きかけを強化する構えも示している。勝IIJ社長はラインモのミニプランについて「非常に低価格なので、(総務省に)公平な競争環境(の整備)を強く求めていく」とも発言。MVNOがMNOに支払うデータ接続料の一層の引き下げなどを、業界団体経由で要望していく考えだ。

MVNOはロビー活動と並行して収益源多様化の努力を急ぎ、強固な収益基盤を構築することが望まれる。そのためには、事業買収などの合従連衡も選択肢になるだろう。各社は自社の立ち位置を再確認した上で、将来ありたい姿を描くことが求められている。

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