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日本特殊陶業会長が幹部候補生に「JIKU」の重要性を説く理由

日本特殊陶業会長が幹部候補生に「JIKU」の重要性を説く理由

日本特殊陶業の尾堂真一会長

あなたの軸とは何ぞや―。日本特殊陶業の尾堂真一会長は、国内外の幹部候補生に対し、共通言語として「JIKU」の重要性を説く。座右の銘は、名前の由来でもある「真実一路」。“名は体を表す”を体現するかの如く、自身の信じる道をひたむきに歩んできた。

大学在学中に父を亡くした。以来、ホンダのディーラーを経営していた幼なじみの父がいろいろと心配してくれ、彼に入社試験をすすめられて日本特殊陶業の門をたたいた。

学生時代より海外を飛び回る仕事に憧れていたがその希望通り海外販売部に配属された。「英語は勉強しておけよ」と励ましてくれた上司の言葉を胸に語学研さんを積み、入社から10年後の1987年、念願かなって初の海外赴任でドイツのデュッセルドルフへ。

その後、豪州や米国など累計で16年間海外勤務した中で、過去の経験も文化も異なる相手との折衝で“軸を持つ”ことの大切さを学んでいった。

「相手と折り合い、交渉を成立させるためには譲る必要がある場面も存在する。軸の定義は難しく、おのおのによるであろう。私は自分の中で決して譲れないものを定義し、譲れない訳・理屈をしっかり持つことを自身の軸として大切にしてきた。ただし、臨機応変もたまには大事だ」

「スポーツチームの監督や政治家などのリーダー的な人たちの話を聞いていると、軸がぶれる人、ぶれない人が見えてくる」

合理主義で、「雑用から先に処理する。早く対応した方が良い結果が出ることが多い」とスピードを重視して仕事に取り組んできた。「企業は社会にとって必要で、社会貢献しなければならない。利益の一部を社会還元する、それが企業の存在価値」との思いで、経営者として主力の自動車のエンジン点火プラグとセンサー事業を拡大し、企業買収を含む新事業強化などを進めた。一方で、最近の世の中の変化を感じている。

「コロナ禍でさまざまな価値観が変わってきており、今は違った経営理念を生み出していく過渡期だ。全く新しい経営感覚が重要になるだろう」

会長として川合尊社長をサポートしつつ、日本自動車部品工業会会長や中部経済同友会代表幹事も務めている。自動車の電動化で長期的には需要減は避けられない内燃機関向け製品を手がける自動車部品業界。既存事業の競争力強化と新規事業の創出という“両利き経営”の重要性を社内外で指南する。(名古屋・福原潤)

【略歴】おどう・しんいち 77年(昭52)専修大商卒、同年日本特殊陶業入社。05年米国特殊陶業社長、07年日本特殊陶業取締役、10年常務、11年社長、16年会長兼社長、19年会長。鹿児島県出身、67歳。

日刊工業新聞2021年8月3日

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