東京五輪「ケイリン」先導車。パナソニック「電動自転車」開発にあった大きな挑戦
パナソニックは、東京五輪の自転車競技「ケイリン」で先導車として使われる電動アシスト自転車を開発した。従来のエンジン付きバイクから二酸化炭素(CO2)排出削減につながる電動自転車への置き換えは、五輪の最上位スポンサー「ワールドワイドオリンピックパートナー」を務めるパナソニックにとっても環境対応を訴求する機会。日本人選手の活躍が期待される中、黒子として競技を支える電動アシスト自転車にも注目だ。(編集委員・林武志)
4日、屋内型自転車トラック競技施設「伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)」を会場にケイリンが始まった。すり鉢状の傾斜がついた周長250メートルの木製走路を最大7人で計6周する。3周目までは時速50キロメートルまで徐々に速度を上げる先導車がペースメーカーを担う。選手は後方の位置取りで駆け引きするが、先頭は風圧をもろに受けるため、先導車は風よけにもなる。
パナソニックサイクルテック(大阪府柏原市)の中田充生開発戦略担当統括部長兼技術部部長は「市販の電動アシスト自転車のスポーツタイプを応用した。当社にとっても技術結集の大きな挑戦」と話す。1年半以上の開発でテーマになったのは(1)時速50キロメートルになる高出力モーター(2)選手が追従しやすい電動アシスト制御(3)直進安定性を確保するフレーム設計―だ。
モーターはギア比の選択などで市販車のユニットから出力を約40%高めた。出力を保つためにバッテリーも同様に約40%向上させている。「単にパワーを上げるのではなく、いかに最適化するか」(中田部長)がノウハウだ。
制御は市販車の場合、時速24キロメートル到達でアシストがゼロになる。当初、スタートからフルパワーにする設定だったが、加速し過ぎる課題があった。変更を重ねて、こぎ出しの出力を保ちつつ、速度ごとに増加する空気抵抗分のモーターパワーを滑らかに加えた。これで選手が追従しやすいようにした。
自転車の骨となるフレームは配置、長さ、角度がカギとなる。従来車種からハンドルを110ミリメートル低位置に変え、重心も67ミリメートル低減し直進安定性の向上につなげた。
2000年シドニー五輪から採用のケイリンは公営競技の「競輪」が基になっている。東京五輪のケイリンに出場するのは男女ともプロの競輪選手だ。パナソニックはプロ選手用の特注自転車の納入実績が豊富。フレームづくりなど「プロ選手はミリ単位の要求が多い」(中田部長)という。今回開発した競技専用先導車には、特注自転車を手がけてきた知見も生きている。
パナソニックは30年までにCO2排出を実質ゼロにする方針を示したばかり。競技専用先導車開発のようなコツコツとした積み重ねが、大きな目標達成に向けたうねりの一部になる。