動物福祉の批判に応えるカギ握る「養鶏AI」。駆使した飼育に注目集まる
福祉と経済性、両立へ
養鶏業界でアニマルウェルフェア(動物福祉)と経済性の両立が新しい研究の軸になろうとしている。日本のケージ飼育は鶏の行動欲求を損なっているとの批判がある。一方で日本の養鶏は海外と同じケージを使っても、病気にかからず生存率が高い。それだけに質の高い飼育をデータで示し、動物福祉の批判に応える必要がある。そのカギを握る鶏の行動ビッグデータ(大量データ)や「養鶏AI」とも言うべき人工知能(AI)を駆使した飼育に注目が集まる。
【厳しいコスト】
「アニマルウェルフェアと言うと生産者はひいてしまう。実用化につながらない研究だった」と鹿児島大学の小沢真准教授は振り返る。養鶏における動物福祉と経済性の両立は難しい。鶏を健康に生かすという面では動物福祉と生産性は両立する。ただ近年、欧米から広がる動物福祉の動きは動物の行動の自由も重んじる。
鶏をケージ飼いすると行動の自由は制限される。鶏ふんは金網の下に落ち、鶏の病気や卵にふんが付着するのを減らせる。だが、鶏の足元が金網であれば砂浴びはできない。こうした鶏の健康と食品衛生、行動の自由といった課題に解決策を出す必要がある。その上、Mサイズの卵の価格は1個15円程度。コスト要求も厳しい。
東京農工大学の新村毅准教授は、鶏の行動をモニタリングするためのセンサーを開発した。鳴き声や映像の解析を試し、加速度センサーを選んだ。「採卵鶏は鶏同士が重なって見えない。加速度センサーが最もモニタリング精度が高い」と説明する。
【80パターン】
鶏に小型犬用の服を着せて電池とセンサーを背負わせた。鶏は採餌や睡眠など行動パターンが約80種類ある。体の動きのデータからAIで鶏の行動を推定し、行動欲求の強い行動が発現できているかを確認する構想だ。新村准教授は「現在は鶏の行動とデータの対応付けを力業でやっている」と苦笑いする。
【精度が課題】
将来は鶏舎の10羽程度にセンサーを装着し、飼育法や環境の評価に使う。研究室で放牧のように育てた鶏の卵は、骨の形成を助けるビタミンD3が増えるという結果が出た。飼育環境や鶏の行動、卵の栄養素の生理学的な関係を解明していく。
研究室での行動判定精度は約9割。品種や飼育環境が変わっても精度を保てるかどうかが課題という。鶏舎ごとにデータ収集が必要だと養鶏農家の負担は増える。そこで標準的な鶏の行動を判定する技術を開発できればモニタリングシステムの導入ハードルを一気に下げられるとみる。